陸上植物の祖先の特徴をもつ苔類ゼニゴケの全ゲノム構造を解明

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河内孝之 生命科学研究科教授、大和勝幸 近畿大学教授、石崎公庸 神戸大学准教授らの研究グループは、オーストラリア・モナシュ大学、国立遺伝学研究所、基礎生物学研究所、東北大学をはじめとする国内外39の大学・研究機関と共同で、ゼニゴケの全ゲノム構造を解明しました。

本研究成果は、2017年10月6日午前1時に米国の学術誌「Cell」オンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、河内教授、大和教授、石崎准教授

本成果で得られたゲノムの知見から、ゼニゴケは、全ての陸上植物が持つ基本的な分子メカニズムを祖先的な形で備えていることがわかりました。今後は、ゲノム編集技術などを駆使して個々の遺伝子の機能を明らかにするとともに、様々な解析をゲノム全体で網羅的に行う予定です。こうしたゼニゴケを新たな「モデル植物」とする研究により、未だ解明されていない全ての陸上植物に共通する重要な分子メカニズムを進化学的な観点から明らかにすることができ、さらに、農作物・有用植物への応用につながることが期待されます。

概要

イネやアブラナなどの被子植物からコケ植物まで、全ての陸上植物は藻類から進化し、約5億年前に水中から陸上へと進出しました。コケ植物の一種である苔類は、陸上進出後の最も早い時期に他の種から分かれて独自に進化した植物の系統の一つであり、陸上植物の祖先の特徴を保っています。このことから、苔類を用いた研究により、全ての陸上植物に共通する重要な分子メカニズムとその進化を解明することが可能になると期待されます。ゼニゴケは苔類の代表的な種の一つであり、15世紀以来、個体発生・生理・遺伝の様式について詳細な観察が行われてきました。近年、ゲノム編集技術をはじめとする様々な遺伝子機能解析の手法が確立され、分子メカニズムの研究が容易な植物として改めて注目されるようになりました。

本研究グループは、短いDNA断片を大量かつ同時に解析する次世代シークエンス解析と、タンパク質のアミノ酸配列や遺伝子の塩基配列同士の類似性を計算し、分子の系統樹を明らかにする分子系統解析により、ゼニゴケの全ゲノム構造を解明しました。

その結果、ゼニゴケは他の植物種に比べて、植物の発生過程・生理機能の制御に関わる遺伝子の重複が非常に少ないこと、ゼニゴケが陸上植物の基本的な分子メカニズムの祖先型を持つことなどがわかりました。本研究により、ゼニゴケが植物の基本的な分子メカニズムを研究するための新たな「モデル植物」として確立され、今後の研究により新しい育種技術などへの応用につながることが期待されます。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.cell.2017.09.030

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/227477

John L. Bowman, Takayuki Kohchi, Katsuyuki T. Yamato, Jerry Jenkins, Shengqiang Shu, Kimitsune Ishizaki, Shohei Yamaoka, Ryuichi Nishihama, Yasukazu Nakamura, Frédéric Berger, Catherine Adam, Shiori Sugamata Aki, Felix Althoff, Takashi Araki, Mario A. Arteaga-Vazquez, Sureshkumar Balasubrmanian, Kerrie Barry, Diane Bauer, Christian R. Boehm, Liam Briginshaw, Juan Caballero-Perez, Bruno Catarino, Feng Chen, Shota Chiyoda, Mansi Chovatia, Kevin M. Davies, Mihails Delmans, Taku Demura, Tom Dierschke, Liam Dolan, Ana E. Dorantes-Acosta, D. Magnus Eklund, Stevie N. Florent, Eduardo Flores-Sandoval, Asao Fujiyama, Hideya Fukuzawa, Bence Galik, Daniel Grimanelli, Jane Grimwood, Ueli Grossniklaus (2017). Insights into Land Plant Evolution Garnered from the Marchantia polymorpha Genome. Cell, 171(2), 287-304.

  • 朝日新聞(11月23日 24面)、京都新聞(10月6日 33面)および産経新聞(10月24日夕刊 3面)に掲載されました。