片上智史 理学研究科博士課程学生、山下裕亮 防災研究所助教、伊藤喜宏 同准教授、太田和晃 同特定研究員、八木原寛 鹿児島大学助教、清水洋 九州大学教授らの研究グループは、海溝などの沈み込み帯の浅い部分で発生するゆっくり地震(通常の地震に比べて遅い断層すべり速度で歪を解放する現象)の活動の後半で、特に潮位変化によりゆっくり地震が誘発されやすいことを発見しました。これらの現象は、沈み込み帯浅部での大きな地震性滑りの原因を理解する上で重要な情報であり、沈み込み帯浅部の歪解放プロセスおよび摩擦特性の理解に向けて重要な知見が得られました。
本研究成果は、2017年9月27日に米国の科学誌「Geophysical Research Letters」に掲載されました。
研究者からのコメント
低周波微動等のゆっくり地震の発生メカニズムは、浅部・深部問わず未解明な部分がまだ多くあります。したがって、プレート境界において低周波微動がどのような断層条件(摩擦特性や岩石の種類)で生じているのかを今後解明していき、通常の地震の発生との関係性を明らかにする必要があります。今回の結果から、浅部のゆっくり地震も潮汐変動のような非常に微小な応力変化で発生する現象であることが解明され、そのような微小な応力変化で誘発されるような断層条件を実験や密な観測、地質調査から明らかにしていくことが重要だと考えられます。
概要
地震波を放出し数分程度継続するゆっくり地震を低周波微動と言います。低周波微動は巨大地震発生前にもしばしば観測され、地震発生を予測する上で重要な現象として注目されています。沈み込み帯の地震発生域深部で起こる低周波微動は研究が進んできていますが、津波発生領域を含む浅部側ではこれまで十分に明らかにされてきていませんでした。例えば、深部の低周波微動は潮の満ち引きに伴い発生すると指摘されていますが、浅部でも同様の関係がみられるかどうかは確認されていません。
そこで本研究グループは、2013年に観測された宮崎県から鹿児島県沖の南海トラフにおける浅部低周波微動を対象に、沈み込み帯浅部で発生する低周波微動も潮の満ち引きと関連があるのか調査を行いました。従来検出されていなかった規模の小さいゆっくり地震を検出する手法を確立し、津波発生域となる沈み込み帯浅部で、潮の満ち引きによってごく微小なゆっくり地震が誘発されることを発見しました。
本研究成果は、東北地方太平洋沖地震時に特に大きくずれ動くことで巨大津波の発生源となった、沈み込み帯浅部の歪蓄積過程や摩擦特性など、これまでよく明らかにされていなかった物理過程を解き明かす上で極めて重要な知見です。また、巨大地震や巨大津波発生そのものの統一的理解に大いに役立つと期待されます。
図:津波発生領域と潮汐応答を示したゆっくり地震の位置関係を示す概略図
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1002/2017GL074060
S. Katakami, Y. Yamashita, H. Yakihara, H. Shimizu, Y. Ito, K. Ohta (2017). Tidal Response in Shallow Tectonic Tremors. Geophysical Research Letters, 44(19), 9699-9706.