正高信男 霊長類研究所教授は、自閉症を持つ子どもが健常児と比べ不協和音そのものをあまり好まない傾向があることを発見しました。一方で、音楽的な効果を狙い意図的に不協和音が使われている楽曲を健常児よりも長い時間聴き続ける傾向があることも確認しました。自閉症を持つ子どもは不協和音やその楽曲中での使われ方に関して健常児とは異なる反応を示しており、ある種「早熟した」音楽の好みを持つことを示唆する結果です。
本研究成果は、2017年9月22日午後4時にスイス・Frontier社のオープンアクセス誌「Frontiers in Psychology」に掲載されました。
研究者からのコメント
自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder;ASD)は症状が多様なことも特徴の一つであり、今回の実験に参加した自閉症児19人のみで結論付けることは難しいのが現状です。今後はASDの症状の程度によって今回の結果とは異なる傾向がみられるのか、自閉症者の中で優れた音楽的才能を持った人を選んで検証したとしても今回と同じ傾向を確認できるのか、といった研究を重ねていくことで、ASDと音楽的能力との関係をより深く理解できるようになると考えています。
概要
ASDは社会性やコミュニケーション能力、想像能力などを基準に診断される発達障害で、調査によって揺れがあるものの、全人口の1~2%が該当すると考えられています。また、近年ではASDを脳の多様性の一つとして捉える考え方も紹介されています。
自閉症患者はしばしば学問や芸術に才能を発揮することも指摘されており、ASDに関する極めて初期の研究報告でも音楽の才能を持つ事例が報告されています。過去の研究ではASDを持つ人を対象に絶対音感や調性音楽・無調性音楽の暗譜能力といった調査が行われてきましたが、演奏に関する能力についての研究が中心であり、認知に関する研究はあまり行われてきませんでした。
そこで本研究では、ASDと診断された4~9歳の子ども19人と、同じ年齢層の健常児28人に様々な楽曲を聞かせ聴取時間を比較することで、自閉症児がどのように音楽を聴いているのか調査を行いました。1つ目の実験では、ほぼ全編が協和音で作曲されている楽曲と、若干編曲を加え不協和音を増やした楽曲を用意し、実験室に用意されたキーボードの特定の鍵盤を押し続けた時間だけ音楽が流れるようにしたところ、どちらのグループも元の楽曲の方を長く聴き続けるという結果が出ました。更に、自閉症児のグループの方が不協和音を多く含む曲を聴く時間が短いという傾向が見られました。
2つ目の実験では、不協和音をあまり含まない楽曲2曲、作曲者が効果を狙って不協和音を入れている楽曲2曲の計4曲について、最初の実験と同じように聴取時間を比較しました。その結果、最初の実験ではどちらのグループも不協和音を多く含む楽曲の聴取時間が短い傾向が見られたのに対し、2つ目の実験では自閉症児のグループの方が不協和音を多く含む楽曲を長時間聴き続ける傾向があることを確認できました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.3389/fpsyg.2017.01595
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/227230
Nobuo Masataka(2017). Neurodiversity, Giftedness, and Aesthetic Perceptual Judgment of Music in Children with Autism. Frontiers in Psychology, 8, 1595.