村上隆介 医学部附属病院特定病院助教、松村謙臣 医学研究科准教授(現近畿大学医学部教授)、J. B. Brown 同講師、日笠幸一郎 同准教授らの研究グループは、卵巣がんの一組織型である卵巣明細胞腺がん(以下、明細胞がん)に関連する遺伝子同士がどのような組み合わせで働き発症に至るのか、その全体像を明らかにしました。
本研究成果は、2017年9月6日に米国の医学誌「American Journal of Pathology」に掲載されました。
研究者からのコメント
今回、明細胞がんの発症に 関連する遺伝子変異のネットワーク構造が明らかになったことで、 明細胞がんの中でもどのような特徴を持ったがんなのかを、 より精緻に診断できると考えています。今後、腫瘍遺伝子の質的および量的な変異を経路全体として診断することで、 悪性度が高いタイプなのか転移しやすいタイプなのかなどを 予測できるよう研究を進めていきたいと考えています。また、ネットワークから複数の経路に対する治療の標的を検討し、薬剤開発につながる研究を目指しています。しかしながら、今回構築したネットワークは既存のデータベースによるタンパク質間の相互作用の情報を元にしているため、新たな相互作用の発見とともにネットワークを変化・拡張させていく必要があると考えています。
概要
明細胞がんは比較的初期に発見されるものの化学療法が効きづらく、治療が難しいがん種です。また、閉経後に卵巣子宮内膜症性嚢胞(子宮内膜症)ががん化する例が多いことが知られています。欧米では卵巣がん全体の4%から12%が明細胞がんの患者さんですが、アジア人では発症率が高く、日本では卵巣がん全体の15%から20%を占めます。欧米での患者数が少ないこともあり、がん遺伝子のデータベース整備が十分とは言えませんでした。
これまでの研究で、 PIK3CA などのがんの増殖を促す遺伝子やがんを抑える ARID1A 遺伝子変異が明細胞がんに関係があることが分かっていましたが、タンパク質合成に関わる遺伝子の網羅的な調査は行われていませんでした。加えて、遺伝的変異がどのような相互作用をすることでがんが発症しているのか、全体像は不明なままでした。
そこで、本研究グループは、明細胞がんに特徴的な遺伝的変異や遺伝子の量の異常を網羅的に調べ、関連する遺伝子とタンパク質のネットワークを構築し、その結果、DNAとタンパク質の合成異常や細胞増殖にブレーキをかける遺伝子など複数の遺伝子に変異や量の異常が起こり、明細胞がんが発症している可能性が高いことが分かりました。
明細胞がんは世界的にアジア人の発症率が高く、子宮内膜症からがん化する例が多いことが知られています。明細胞がんの精緻な診断法開発や治療標的の検討に示唆を与える成果です。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.ajpath.2017.06.012
Ryusuke Murakami, Noriomi Matsumura, J.B. Brown, Koichiro Higasa, Takanobu Tsutsumi, Mayumi Kamada, Hisham Abou-Taleb, Yuko Hosoe, Sachiko Kitamura, Ken Yamaguchi, Kaoru Abiko, Junzo Hamanishi, Tsukasa Baba, Masafumi Koshiyama, Yasushi Okuno, Ryo Yamada, Fumihiko Matsuda, Ikuo Konishi, Masaki Mandai (2017). Exome Sequencing Landscape Analysis in Ovarian Clear Cell Carcinoma Shed Light on Key Chromosomal Regions and Mutation Gene Networks. American Journal of Pathology, 187(10), 2246-2258.