水畑吉行 化学研究所准教授、時任宣博 同教授、角山寛規 慶應義塾大学専任講師、中嶋敦 同教授らの研究グループは、気相中で生成させた化学種を液体中に直接打ち込むという新たな手法を開発して、金属原子1個を内包したシリコン原子16個からなるケージをもつ球形の「金属内包シリコンナノクラスターM@Si 16 」を大量合成し、構造決定することに成功しました。
本研究成果は、2017年8月28日付けで米国化学会の学術誌「The Journal of Physical Chemistry C」オンライン版で公開されました。
研究者からのコメント
本成果により、金属内包シリコンナノクラスターM@Si 16 を100ミリグラムのスケールで得ることが可能になり、これまでのC 60 フラーレンに続いて、金属内包シリコンナノクラスターの機能材料への応用の道が拓かれました。今後は、このナノクラスターの電気的、磁気的な機能の評価を詳細に進めるとともに、中心金属原子の置換によるナノクラスター超原子の周期律へと展開していきます。
本研究成果のポイント
- 新しい手法により100ミリグラムスケールの金属内包シリコンナノクラスターの合成に成功した。
- 金属内包シリコンナノクラスターが対称性の高いかご型構造であることを明らかにした。
- 今後、太陽電池や電子・磁気デバイスとしての応用が期待される。
概要
数個から千個程度の原子・分子が集合したナノクラスターは、原子・分子より大きく、またバルク(原子や分子が多数集合して固体や液体となった物質)よりも小さく、そのどちらとも違った性質や機能をもっています。その性質が、原子数や組成、荷電状態によって制御できるため、触媒、電子デバイス、磁気デバイスなどへの応用が期待されています。特に、エレクトロニクス分野では、シリコンなど半導体材料のナノクラスター1つ1つを積み木のように組み上げて、新たな機能をもつ超微細集積構造を生み出す技術が注目されています。しかし、これまで気相合成(ヘリウムガスなど気体中にイオンやプラズマなどが存在する状態で合成)されたナノクラスターの生成量が極めて微量であったため、その構造を材料応用の視点から評価することは極めて困難でした。
本研究グループは、チタン(Ti)やタンタル(Ta)の金属原子を内包させたTi@Si 16 、Ta@Si 16 を大量に気相合成し、ポリエチレングリコールの液体中に打ち込むことで化学的精製を行いました。また、その構造を評価し、その結果、これらのナノクラスターがこれまでのシリコン化合物にはない新たな結合様式をもつ、かご型構造であることを明らかにしました。これらの結果は、太陽電池や電子デバイスの基盤技術として利用価値が高いと考えられます。
図:量子化学計算によるTi@Si 16 ナノクラスターの安定構造
異性体Bに比べて異性体Aがより安定であり、実測のNMRスペクトルを再現する。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1021/acs.jpcc.7b06449
Hironori Tsunoyama, Hiroki Akatsuka, Masahiro Shibuta, Takeshi Iwasa, Yoshiyuki Mizuhata, Norihiro Tokitoh, and Atsushi Nakajima (2017). Development of Integrated Dry–Wet Synthesis Method for Metal Encapsulating Silicon Cage Superatoms of M@Si16 (M = Ti and Ta). The Journal of Physical Chemistry C, 121(37), 20507–20516.