大昔の子供と大人の食事内容は同じ?違う?食物の摂取割合を骨から探る

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蔦谷匠 理学研究科・日本学術振興会特別研究員は、過去1万年間程度の世界中の古人骨集団について報告済みのデータを集め、離乳後から8歳までの子供と成人女性・男性の食性を比較しました。特に、食性の全体に占める植物の摂取割合に着目し、子供と成人女性・男性の食性差はあってもごくわずかであることを発見しました。加えて、狩猟採集民では有意な食性差が見られない一方で、農耕民・都市居住民では子供の植物摂取割合が成人よりわずかに高いこともわかりました。

本研究成果は、2017年8月8日にワイリー社の国際学術誌「American Journal of Physical Anthropology」に掲載されました。

研究者からのコメント

ほとんどすべての自然人類学者は大人で、研究も大人を対象にしたものが多かったようです。そうした過去の反省からか、ここ十数年で、自然人類学における子供の研究は大きく進歩しました。本研究では、離乳後の子供の食事がどういう内容だったかを、世界各地の過去のヒト集団について、横断的に調べてみました。このような割と基本的なことも、実はまだあまりきちんと調べられていなかったのです。

概要

ヒトの子供は離乳後も年上の個体から食物を与えられます。霊長類のなかで見ると、これはユニークな特徴です。食物の提供を受けることで、ヒトでは子供の時期の死亡率が比較的低く抑えられています。しかし、この時期の子供が実際に何を食べているか、さまざまなヒト集団について横断的に調べた研究はありませんでした。

本研究では、過去1万年間程度の世界中の古人骨集団について報告されたデータを集めてメタ解析し、離乳後の子供の食性を、同じ集団の成人女性・男性の食性と比較しました。古人骨に含まれる炭素・窒素の安定同位体比には、生前の食生活の情報が記録されています。これらの値を指標にすることで、子供と成人の食事の差(特に本研究では、食物全体に占める植物の割合)を知ることができます。本研究では最大36の古人骨集団のデータを用いました。

解析の結果、離乳後の子供と成人女性・男性の食性差は、あってもごくわずかでした。同じ集団の成人から食物を与えられていれば、子供の安定同位体比は成人の値と同様になると期待されます。離乳後の子供に年上の個体が積極的に食物を与えるという進化的なヒトの特徴と、本研究の結果は整合的でした。

ただし、狩猟採集によって暮らしている集団では、離乳後の子供、成人女性、成人男性の間に有意な食性差はなかったものの、農耕民・都市居住民の集団では、離乳後の子供>成人女性>成人男性という順で、食性のなかに占める植物の割合がわずかに高い傾向がありました。離乳食として、農耕民は穀物や植物をよく用いる傾向があることが先行研究によって示唆されていましたが、離乳後の子供が摂取する食物にも同様の傾向があることが、本研究によってわかりました。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1002/ajpa.23295

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/227788

Takumi Tsutaya (2017). Post-weaning diet in archaeological human populations: A meta-analysis of carbon and nitrogen stable isotope ratios of child skeletons. American Journal of Physical Anthropology, 164(3), 546–557.