佐藤雄貴 理学研究科修士課程学生、笠原成 同助教、松田祐司 同教授らの研究グループは、東京大学、九州産業大学、韓国科学技術院、ドイツ・マックスプランク研究所と共同で、銅酸化物高温超伝導体が超伝導状態になる過程で現れる特異な金属状態を解析しました。その結果、電子が集団的な自己組織化によって配列し、ある種の液晶状態が作られていることを発見しました。高温超伝導がどのように起こるのか、その過程で特異な金属状態がみられることは分かっていましたが、変化のメカニズムや高温超伝導との関係は四半世紀に渡り謎のままでした。
本研究成果は、2017年7月25日午前0時に英国の学術誌「Nature Physics」に掲載されました。
研究者からのコメント
高温超伝導現象の発現機構解明は世界中の多くの研究者が長年取り組んでいる現代物理学における最重要課題の一つです。今回、高温超伝導の舞台である金属状態の特異な性質が解明されたことで、長年の論争を解決し、高温超伝導の発現機構解明に向けた重要な指針を与えたことになります。本研究成果はこの点において非常に大きな意義をもつものであると考えます。
概要
超伝導は、ある種の物質を冷却すると電気抵抗が完全にゼロになる現象です。1986年に発見された銅酸化物における高温超伝導現象の解明は、現代物理学において最も重要な問題の一つであり、多くの科学者がこの研究に取り組んでいます。
高温超伝導の発現機構を解明するには、超伝導が起こる前の金属状態の性質を理解することが不可欠です。銅酸化物高温超伝導体では、超伝導を示すよりも高温で、一部の特定方向の電子が消失する特異な金属状態が現れることが研究初期より観測されていました。この状態は擬ギャップ状態と呼ばれていますが、この状態がどのようにして生じ、また高温超伝導の発現機構とどのように関連するのかは、四半世紀をこえる高温超伝導の歴史において最大の謎の一つでした。
今回、本研究グループは、磁気トルク測定という超高感度磁気測定を用いることで、擬ギャップ状態での磁気的性質を従来にない高い精度で調べました。その結果、電子が集団的な自己組織化によって配列することで一種の液晶状態に変化していることを発見しました。本研究成果は高温超伝導の発現機構の理解に重要な指針を与えるものと期待されます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 http://.doi.org/10.1038/nphys4205
Yuki Sato, Shigeru Kasahara, Hinako Murayama, Yuichi Kasahara, Eun-Gook Moon, Terukazu Nishizaki, Toshinao Loew, Juan Porras, Bernhard Keimer, Takasada Shibauchi and Yuji Matsuda (2017). Thermodynamic evidence for nematic phase transition at the onset of pseudogap in YBa 2 Cu 3 O y . Nature Physics, 13(11), 1074-1078.