横川隆司 工学研究科准教授、梨本裕司 同特定助教、三浦岳 九州大学教授、西山功一 熊本大学特任准教授らの研究グループは、培養した組織の中に毛細血管状の管を通し、血流を模した流れを作ることで栄養や酸素を供給できるマイクロ流体デバイスを開発しました。これまでにも組織内に同様の管を作ることには成功していましたが、液体を流し組織を長期間培養することは困難でした。
本研究成果は、2017年5月31日午後6時に英国の学術誌「Integrative Biology」オンライン速報版に掲載されました。
研究者からのコメント
血管を介した栄養、酸素供給を行う技術は、組織培養に長年必要と考えられてきた技術です。本研究では、マイクロ流体デバイスを用いて工学的に細胞からの液性因子の濃度勾配を制御することで、組織モデルへの血管網の誘導と導入を実現しました。肝臓、腎臓などの組織の培養や、長期の組織観察に展開でき、ES細胞やiPS細胞を利用した人工組織に利用することで、今後の再生医療への貢献が期待されます。
概要
私たちの体は、60兆個もの細胞が協働し、機能的な「かたち」を作ることで維持されています。細胞による組織の「かたち作り」を理解するためには、実験動物から摘出した組織や、ES細胞、iPS細胞等から人工的に作った組織を、体の外で長期間観察する必要があります。このためには、外部から血管を通じて栄養、酸素を人工組織に供給することが必要です。
本研究グループは、微小なマイクロ流体デバイスを用いることで、細胞の形態形成能により自発的に形成された血管の末端が、人工的な流路に接続した血管を作製しました。さらにこの血管を利用して、組織モデルとして広く利用されている細胞凝集体(スフェロイド)の中に、栄養、酸素の供給に利用可能な血管網を作ることに成功しました。マイクロ流体デバイスは、細胞と同程度のマイクロメートル単位の流路を持つデバイスであり、体の中と同じような細胞同士の作用を再現することができます。研究では、血管を誘導する繊維芽細胞でスフェロイドを構築し、血管を構成する細胞である血管内皮細胞を培養した流路チャネルの横でスフェロイドを培養することで、流路とつながった血管をスフェロイドへ誘導し、スフェロイド内で液体を流すことが可能な血管網を作製しました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1039/C7IB00024C
Yuji Nashimoto, Tomoya Hayashi, Itsuki Kunita, Akiko Nakamasu, Yu-suke Torisawa, Masamune Nakayama, Hisako Takigawa-Imamura, Hidetoshi Kotera, Koichi Nishiyama, Takashi Miura and Ryuji Yokokawa (2017).Integrating perfusable vascular networks with a three-dimensional tissue in a microfluidic device. Integrative Biology, 9, 506-518.
- 京都新聞(6月1日 23面)、産経新聞(6月1日 20面)および日刊工業新聞(6月1日 23面)に掲載されました。