水元惟暁 農学研究科博士課程学生、土畑重人 同助教、阿部真人 国立情報学研究所特任研究員らの研究グループは、オスとメスが互いに探索しあう状況を想定した理論モデルを構築し、探索時間が限られているときにはオスとメスで異なる動き方をするのが双方にとって最適であることを発見しました。また、生物進化を模倣したシミュレーションを行うことで、動き方に性差が生まれることを示しました。今回の研究成果は、ランダム探索問題に双方の利益という視点を導入した点において重要な意味を持ちます。
本研究成果は、2017年5月10日に英国王立協会の学術誌「Journal of the Royal Society Interface」に掲載されました。
研究者からのコメント
探索問題は、人を含めた動物行動における普遍的な問題であり、分子運動や工学などの応用にも直結する幅広い問題です。今回、互いが互いを探索する状況で、互いに異なる動きをすることが最適になりうるということを発見できました。動物の配偶者探索に当てはめると、この理論は、性差がどのように進化したのかについての新たな仮説になると考えています。今後は、実際の動物がこの理論にあてはまるかどうかの実証をしたいと考えています。
概要
どのように動けば、効率よく目的の物を見つけることができるのか。これはランダム探索問題と呼ばれ、動物の探索行動だけでなく、タンパク質の運動から群ロボット、迷い人捜索に至るまで幅広い現象で生じる問題です。これまでの探索理論の研究は、餌を探索する動物がどれだけ多くの餌を得られるか、といった探索者の利益のみを考えるものが大半でした。このため、動物のオスとメスのように、互いの位置情報を持たないが、探索して出会わなければならない状況での効率の良い探索戦略についての知見はほとんどありませんでした。
そこで本研究グループは、オスとメスがそれぞれの動きのパターンで探索しペアが生じたものから探索をやめる、相互探索の状況を考えたシミュレーションモデルを構築しました。動きのパターンにはLevy walk(頻繁に生じる短い直線移動と、稀に生じる長い直線移動からなるパターン)を用いて様々なものを用意しました。そして、限られた制限時間内でそれぞれの動きのパターンをしたオスとメスが出会えたかどうかで、探索効率を計測しました。
1次元空間に1個体のオスとメスがいる状態を考えてシミュレーションを行ったところ、制限時間が短いときには、拡散的な(直線的に動いた)ペアが最大効率に達し、制限時間が長いときには、非拡散的な(頻繁に方向転換した)ペアが最大効率を得ました。一方、制限時間が中間的なときには、中間の拡散性を持つペアではなく、拡散的な個体と非拡散的な個体とのペアが最大効率に達しました。また、2次元空間に複数個体がいる状況に拡張しても、制限時間が中間的なときには、集団内に拡散的な個体と非拡散的な個体がいる場合にオス、メスともに最大効率を得ることを確認しました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1098/rsif.2017.0086
Nobuaki Mizumoto, Masato S. Abe, Shigeto Dobata (2017). Optimizing mating encounters by sexually dimorphic movements. Journal of the Royal Society Interface, 14(130):20170086.
- 科学新聞(6月2日 4面)に掲載されました。