横山明彦 医学研究科特定准教授(現 国立がん研究センターチームリーダー)らの研究グループは、国立がん研究センターと共同で、悪性度が高く乳児に多いMLL遺伝子変異を伴う急性白血病について、がん化を引き起こすメカニズムを分子レベルで解明し、同成果をもとに分子標的薬2剤による併用療法で高い抗腫瘍効果が期待できることを実験的に証明しました。
本研究成果は、2017年4月11日に米国の科学雑誌「The Journal of Clinical Investigation」オンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
今回、MLL変異白血病細胞にMLL複合体形成阻害剤とDOT1L酵素活性阻害剤を併用すると、AF4とDOT1L(どちらもMLL変異体タンパク質の結合タンパク質)の活性が同時に阻害され、その結果白血病細胞を著しく減少させることが示されました。現行の治療法ではMLL遺伝子の変異を持つ白血病は予後不良であり、将来的にこの二つの分子標的薬の併用療法が有効な治療法として確立され、患者さんの治療に役立つことが期待されます。
本研究成果のポイント
- MLL遺伝子変異を伴う急性白血病について、がん化を引き起こすメカニズムを分子レベルで解明
- 異なる機能を持つ2種類のたんぱく質が相補的に働きがん化が引き起こされることを発見
- 2種類のたんぱく質の働きを阻害する分子標的薬2剤の併用療法により、高い抗腫瘍効果が期待できることを実験的に証明
概要
急性白血病は、白血球の成長途中の幼若な段階で遺伝子異常が起こり、がん化した細胞(白血病細胞)が無制限に増殖することで発症します。MLL遺伝子に変異を持つタイプは、急性白血病症例全体の5から10%でみられ、特に乳児の急性リンパ性白血病に多くみられます。MLL変異が無いタイプの生存率が90%であるのに対し、変異を持つタイプの生存率は約40%と極めて低く、新しい治療法の開発が強く望まれています。しかし、これまでがん化における分子レベルのメカニズム解明に至っておらず、有効な治療法が見出されていませんでした。
そこで本研究グループは、クロマチン免疫沈降法(タンパク質とDNAの相互作用を検出する実験法)を用いて、MLL変異体タンパク質の一つであるMLL-ENLとその結合タンパク質であるAF4やDOT1Lが局在するゲノム領域を同定しました。その結果、MLL-ENLはAF4をがん関連標的遺伝子上にリクルートしており、その近傍にDOT1Lも局在することを明らかにしました。また、マウスにおいて白血病を引き起こす病態モデルを用いて、MLL変異体タンパク質が白血病を引き起こす上で必要な構造を調べることで、MLL-ENLやMLL-AF10といったMLL変異体タンパク質がAF4とDOT1L両方を介して、遺伝子の異常な活性化を起こしていることを見出しました。AF4とDOT1Lは異なる働きを持っていますが、それぞれが相補的に働くことで遺伝子の発現を強く活性化し、がん化が引き起こされることが分かりました。
これを踏まえ、MLL変異体タンパク質の複合体形成を阻害する(AF4が標的遺伝子上にリクルートされることを妨げる)薬剤と、DOT1Lの酵素活性を阻害する薬剤の併用について検討を行いました。単剤ではあまり効果のない低濃度でも2剤を併用すると、MLL白血病細胞の増殖を効率的に阻害し、分化を誘導しました。また、3日間、2剤に暴露させた白血病細胞をマウスの体内に移植した場合、ほとんど白血病を起こさないことを見出しました。これらの実験によって、AF4とDOT1Lの活性が同時に阻害されると、高い抗腫瘍効果が得られることを確認しました。
図:MLL変異体タンパク質による白血病化のメカニズム
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1172/JCI91406
Hiroshi Okuda, Boban Stanojevic, Akinori Kanai, Takeshi Kawamura, Satoshi Takahashi, Hirotaka Matsui, Akifumi Takaori-Kondo and Akihiko Yokoyama (2017). Cooperative gene activation by AF4 and DOT1L drives MLL-rearranged leukemia. The Journal of Clinical Investigation, 127(5), 1918-1931.