光子を用いた、3量子ビットのゲート操作実現に成功 -光量子回路の飛躍的な高効率化に寄与-

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竹内繁樹 工学研究科教授らの研究グループは、北海道大学、大阪大学、広島大学と共同で、光量子回路により3つの量子ビットに対する「制御スワップ操作」を、外部入力の可能な物として初めて実現しました。本研究成果は、光量子コンピュータの集積化、高効率化や、量子状態を用いたさらに高度なセキュリティー技術の実現につながる成果です。

本研究成果は、2017年3月31日午後6時に英国の科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント

竹内教授

今回の成果により、従来の2入力ゲートを組み合わせた光量子回路に比べて、光量子回路の効率を大きく高めることが可能です。また、量子指紋認証など、量子状態を用いたさらに高度なセキュリティー技術の実現などが期待されます。

概要

近年、量子力学の基本的な性質を応用し、従来不可能であった計算や通信、計測、センシングなどを実現する「量子技術」が注目されており、たとえば盗聴不可能な通信を実現する量子暗号通信や、既存のコンピュータでは解けない問題を解く量子コンピュータの実現に向けた研究が進められています。光の素粒子である「光子」は、量子状態の保存性が良く、また長距離伝送が可能であることなどから、量子情報の有力な担体として研究が進められています。

これまでに、2つの光子間のゲート操作(2入力2出力ゲート素子)は実現されていますが、現在その効率が限られており、その集積化の上で問題となっていました。それを解決すると期待されるのが、3入力3出力ゲート素子の実現です。特に、制御スワップゲートと呼ばれる素子は、量子誤り訂正や、量子指紋認証など、様々な量子プロトコルに用いることが可能です。制御スワップゲート素子は、2入力2出力素子を組み合わせることで理論上可能ですが、その場合、成功確率は10万分の1以下となり、実現は事実上不可能でした。

この問題に対し、Fiurasek(フューラセック)らは、2008年に光の干渉計を組み合わせた独自の提案で、従来の500倍以上の効率(162分の1)で、制御スワップを実現する方法を理論的に提案しました。しかし、この方法を実現するには、非常に複雑な光干渉の長時間安定化など技術的な困難が多数存在し、これまで実現していませんでした。また最近、オーストラリアのグループにより制御スワップ操作の実現が報告されましたが、これは外部からの光量子ビットの入力が不可能であり、光量子回路をはじめとする様々な応用にそのまま用いることはできませんでした。

そこで本研究グループは、Fiurasekが理論的に提案した方法に基づき、外部からの光量子ビットが入力可能な制御スワップゲート操作の実現に初めて成功しました。実験にあたっては、複数の特殊な半透鏡が、1つの光学部品に集積されたハイブリッド光学素子を巧みに組み合わせることで、非常に複雑な光回路を長時間安定な光干渉計として実現するなど、技術的な課題を克服しました。

図:実験装置の概念図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/srep45353

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/219408

Takafumi Ono, Ryo Okamoto, Masato Tanida, Holger F. Hofmann, Shigeki Takeuchi.(2017). Implementation of a quantum controlled-SWAP gate with photonic circuits. Scientific Reports, 7, 45353.