遠藤政幸 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)特定拠点准教授、杉山弘 同教授(兼 理学研究科教授)、ハンビン・マオ ケント州立大学教授らの研究グループは、DNA鎖で囲まれたナノスケールの立体空間を作成し、その空間の中に、染色体の末端に存在し細胞の癌化などに関与しているDNA構造の一つ「グアニン四重鎖構造」を配置することで、この構造体が熱力学的に極めて安定した性質を示すことを見出しました。特定のサイズのナノスケールの空間に閉じ込められた生体分子が、機械的・熱力学的に極めて安定化され、構造体が折り畳まれたりほどけたりする速度が極めて増大することが明らかとなりました。
本研究成果は、2017年3月28日午前0時に英国の科学誌「Nature Nanotechnology」で公開されました。
研究者からのコメント
本成果は、空間の広さを制限することによって生体分子がどれくらい安定化するかを実測した初めての例で、DNA構造体を使いデザインできる空間を使っているため、タンパク質や酵素などのもつ反応性と空間の関係性を探索する手段として活用できます。今後は、ナノ空間内で、より複雑なRNA構造体やペプチド、タンパク質の安定性や折り畳みについても研究を進め、新たなナノサイエンスを創出します。
概要
細胞内で合成される核酸(DNAやRNA)やタンパク質、酵素などの生体分子は、固有の立体構造に折り畳まれることで機能を持つようになります。そのため、その折り畳みやほどけるメカニズムが分子のおかれる環境によってどのように異なるかを解明することは、それらの生体分子の反応の多様性について理解することにつながります。
本研究グループは、生体分子の立体構造の形成に、分子が置かれた空間の広さがもたらす影響に着目しました。「DNAオリガミ」と呼ばれる、DNA鎖を折り曲げてナノスケールの構造体を作る手法で作成した数ナノメートルのさまざまなサイズの角筒状の構造体(ナノケージ)を用い、その中にグアニン四重鎖構造を配置することで、ナノ空間に閉じ込められた分子を再現しました。分子を空間的に操作できる光ピンセットを用いて、グアニン四重鎖構造を両方向から引っ張ることで、その構造がほどけたり、再び折り畳まれたりする過程を1分子レベルで測定しました。
この結果、特定のサイズのナノケージ内に導入したグアニン四重鎖構造は、構造的・機械的・熱力学的に極めて安定化され、構造体の折り畳みやほどける速度が大きく増大することが明らかとなりました。このことにより、これまでは計算科学のシミュレーションによって推定されていた反応メカニズムが実験的に確かめられました。
図:グアニン四重鎖構造をDNAで作られた角筒状のナノケージに入れ、その物性を光ピンセットを用いて1分子測定した。グアニン四重鎖は、ナノケージ内で大きく安定化され、ケージのない状態に比べて折り畳みの速度が100倍になった。ナノスケールの空間が生体分子の物性を大きく変えることが実測できた。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1038/nnano.2017.29
Prakash Shrestha, Sagun Jonchhe, Tomoko Emura, Kumi Hidaka, Masayuki Endo, Hiroshi Sugiyama and Hanbin Mao. (2017). Confined space facilitates G-quadruplex formation. Nature Nanotechnology.