久保拓也 工学研究科准教授、大塚浩二 同教授、内藤豊裕 同助教、久保田圭 同博士課程学生、谷川哲也 株式会社ケムコ代表取締役らの研究グループは、安価な樹脂を用いて高通水性の多孔性樹脂(スポンジモノリス)を開発し、抗体の高速分離に成功しました。
本研究成果は、2017年3月14日午後7時に英国の学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。
研究者からのコメント
本研究では、比較的安価な高分子材料を利用して作製した多孔性材料を用いることで、抗体の高速分離に成功しました。今後、特に抗体医薬品の精製段階における時間短縮やコスト削減の実現へ向けた発展的な研究が期待できます。
概要
低い副作用や体内での高い安定性などの利点から、近年、抗体医薬品開発が急速に進められています。通常、細胞培養によって得られる抗体は、煩雑な前処理、複数の精製過程を経て単離されます。一方で、抗体医薬品開発においては、臨床検査段階においても年間100kg以上のターゲット抗体が必要となり、市販化される医薬品の場合にはさらに大量の単離・精製が必要になるため、大量かつ高速での精製技術が求められています。また、新薬開発段階では、候補の抗体のスクリーニングのために、多検体の分析が必要になります。
精製、分析のいずれについても、Protein Aを固定化した分離カラムによる免疫グロブリンG(IgG)の分離のように、タンパク質間の特異的な相互作用を利用したアフィニティクロマトグラフィー(主としてタンパク質同士または低分子物質との親和性によって物質を分離する方法)が一般的に用いられています。現在の方法では、Protein Aを固定化したシリカゲルやアガロースの粒状充填剤を分離剤として用いる場合が多いですが、現行以上の高い通水性や低コスト化を実現するのは難しいと言えます。そのため、上記の分離・精製過程の簡便化、高速化、低コスト化の開発途上が、現在の抗体医薬品の低コスト化に対するボトルネックになっていると考えられます。
そこで本研究グループは、汎用の比較的安価な合成樹脂を用いて、超高通水性の多孔性樹脂を利用した新規アフィニティクロマトグラフィー用カラムを着想しました。その結果、タンパク質が結合可能なエポキシ基を含むスポンジモノリスを開発し、その表面にProtein Aを固定化することで、IgGの高速分離に成功しました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 http://doi.org/10.1038/s41598-017-00264-y
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/218919
Kei Kubota, Takuya Kubo, Tetsuya Tanigawa, Toyohiro Naito & Koji Otsuka. (2017). New platform for simple and rapid protein-based affinity reactions. Scientific Reports, 7(1):178.
- 朝日新聞(3月30日 23面)、京都新聞(3月15日 23面)および日刊工業新聞(3月15日 29面)に掲載されました。