建内宏重 医学研究科助教、市橋則明 同教授らの研究グループは、患者一人一人の歩き方の違いに影響される一歩ごとの股関節への負荷と、日常生活や仕事による一日の活動量(歩数)とを掛け合わせた新たな指標である「股関節累積負荷」を考案し、変形性股関節症の進行との関係を調査しました。その結果、股関節累積負荷の増大は、変形性股関節症の進行に関わる重要な要因であることが明らかとなりました。
本研究結果は、2017年2月20日に国際変形性関節症学会の学術誌「Osteoarthritis and Cartilage」に掲載されました。
研究者からのコメント
本研究により、これまで明らかでなかった変形性股関節症の進行に関わる力学的要因が特定されました。股関節累積負荷の増大は、負荷のかかる歩き方か過剰な活動量のどちらか、あるいはその両方の問題から生じます。それらはいずれもリハビリテーションによって変えられる可能性のある要因であるため、今後、本研究結果が疾患進行を予防するための効果的なリハビリテーションの開発へとつながることが期待されます。
概要
変形性股関節症は、股関節の痛みや可動範囲の制限、筋力低下などの症状が出る疾患です。歩行や立ち座りなどの運動機能や生活の質にも大きな悪影響を与えます。女性に多い疾患であることが知られており、日本では約120万から420万人の患者がいるとされています。
変形性股関節症は慢性進行性の疾患であるため、進行予防は極めて重要な課題です。現在まで、骨形態の異常や加齢、性別など複数の要因が疾患進行に関わることが明らかになっています。さらに、一般的に、股関節に過剰な負荷をかけることも疾患を進行させる可能性があると考えられてきました。しかし、関節へのどのような負荷が進行を加速させてしまうのか、その要因はまだ世界的にも明らかではありませんでした。進行要因が明確でなかったため、進行を予防する効果的なリハビリテーションも不明でした。
そこで本研究グループは、仮に一歩ごとに加わる負荷は小さくても、活動量が多すぎれば一日に股関節に加わる負荷の総量は大きくなるため、一日に股関節に加わる負荷の総量である股関節累積負荷の増大は股関節に悪影響を与える可能性があると考えました。医学部附属病院整形外科で変形性股関節症と診断され、経過観察中の患者50名を対象とした分析調査を行った結果、股関節累積負荷の増大は変形性股関節症の進行に関わる重要な要因であることが明らかとなりました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 http://doi.org/10.1016/j.joca.2017.02.796
H. Tateuchi, Y. Koyama, H. Akiyama, K. Goto, K. So, Y. Kuroda, N. Ichihashi. (2017). Daily cumulative hip moment is associated with radiographic progression of secondary hip osteoarthritis. Osteoarthritis and Cartilage.
- 日本経済新聞電子版(3月15日)に掲載されました。