澤井努 iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)研究員、八田太一 同研究員、藤田みさお 同准教授らの研究グループは、ヒトiPS細胞を用いた動物性集合胚(動物の胚にiPS細胞やES細胞など、ヒトの細胞を注入したもの)研究をめぐる一般市民と研究者の意識調査を実施し、回答者の過半数が、現在日本で認められている以上の研究を認めるということを明らかにしました。
本研究成果は、2017年3月2日に英国の科学誌「Regenerative Medicine」に掲載されました。
研究者からのコメント
今回の研究では、人の臓器を持った動物を作るというショッキングに聞こえる研究であっても、その目的や意図が明示されれば、一般市民の過半数は許容するということが明らかになりました。ただ同時に、不安、気持ち悪い、そんなことをしてもいいのか、という複雑な心情も数多く語られていました。
先端科学技術をどこまで受け入れるのかは、一般市民も含め、社会で十分に議論していく必要があります。一見、どこから取り組んでよいのか分からない倫理的な課題を整理し、今回のように議論の土台となる枠組みを提示した上で一般市民に問いかけ、議論を促進できるような研究活動を今後も行っていきます。
概要
動物性集合胚研究とは、遺伝子操作によって特定の臓器ができないようにした動物の胚に、ヒトiPS細胞など多能性幹細胞を注入して行う一連の研究を指します。この研究により、将来的に、動物の体内で人の臓器を作製し、移植に利用したり、創薬、病態解明に利用したりすることが期待されています。
現在日本では、「特定胚の取扱いに関する指針」(以下、特定胚指針)において、移植用臓器の作製を目的に、動物の胚にヒト細胞を注入し、動物性集合胚を作製することが認められています。しかし、同指針では、動物性集合胚の作成目的を移植用臓器の作製に関する基礎研究に限っており、その胚をある一定期間を超えて発生させたり、動物の子宮に戻したりすることは認められていません。
2013年、生命倫理専門調査会が特定胚指針を見直すことを決定して以降、特定胚等研究専門委員会が動物性集合胚の研究について議論してきましたが、これまで当該研究に対する民意の把握は十分に行われていませんでした。
そこで本研究グループは、一般市民とiPS細胞研究所の研究者を対象に、当該研究に関する質問紙調査を実施しました。動物性集合胚研究を三つの段階(動物の胚へのヒトiPS細胞の注入、人の臓器を持つ動物の作製、臓器を必要とする人への移植)に分け、さらに各段階の研究目的を示した上で、どの段階までであれば受け入れられるのかを尋ねました。
その結果、動物性集合胚の作製に関しては、80%以上の一般市民が、また90%以上の研究者が認められると回答し、人の臓器を持つ動物個体の作製に関しても、60%以上の一般市民が、また80%以上の研究者が認められると回答しました。こうした調査結果は、動物性集合胚の作製に関する調査を行った国内の先行調査と比べても、高い許容度を示しています。
図:動物性集合胚研究の説明
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 http://doi.org/10.2217/rme-2016-0171
Tsutomu Sawai, Taichi Hatta and Misao Fujita. (2017). Public attitudes in Japan towards human–animal chimeric embryo research using human induced pluripotent stem cells. Regenerative Medicine.