陳勇 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)特定拠点教授、亀井謙一郎 同特定准教授、劉莉 同特定拠点助教らの研究グループは、グンゼ株式会社と共同で、ヒトES/iPS細胞の大量培養を可能にする、「布」を足場とした細胞培養基材の開発に、世界で初めて成功しました。これは従来とは全く異なる培養方法で、今後、再生医療などにおいてヒトES/iPS細胞が実用化される際に、十分な細胞数を獲得するための重要な技術となることが期待されます。
本研究成果は、2017年2月8日にオランダの科学誌「Biomaterials」に掲載されました。
研究者からのコメント
本成果では、まず「ファイバー・オン・ファイバー」という新しい細胞培養基材を開発し、それを用いてヒトES/iPS細胞の新しい大量培養法の開発に成功しました。これは、従来から提唱されていた大量培養法とは全く違う、ナノ加工された「布」を用いる方法です。今後、組織工学や再生医療の発展に貢献することが期待されます。また、ヒトES/iPS細胞だけでなく、さまざまな接着系の細胞を大量培養するために基材としても利用されることが期待されます。この基材開発によって、私たちは組織工学・再生医療を私たちの身近なものにするために貢献していきたいと思っています。
概要
ヒトES/iPS細胞は再生医療や創薬などで活躍する細胞として期待されています。その一方で従来のような培養皿やフラスコを用いた2次元(平面)細胞培養では、空間を上手く活用できず、実用化する際に十分な細胞数を得ることが非常に困難でした。また、大量細胞培養法として近年着目されている、液体に細胞を浮遊させて行う培養法では、不規則な細胞凝集や撹拌による細胞ストレスがヒトES/iPS細胞の品質に大きく影響を及ぼしてしまいました。
そこで本研究グループは、フィルターなどの分野などで実用化されているナノ加工技術を基にした「ナノファイバー」に着目しました。このナノファイバーを細胞の人工的な足場として用いることによって、ヒトES/iPS細胞の未分化状態を維持したまま増殖を促すことができます。しかし、ナノファイバーは材料としてはもろく、大量培養に応用することができていませんでした。本研究では、物理的な強度があるマイクロファイバーをナノファイバーを組み合わせた、丈夫な新しい基材「Fiber-on-Fiber(ファイバー・オン・ファイバー)」の開発に成功しました。さらに、この基材をガス透過性のある細胞培養バッグに封入し、上手くバッグ内の空間を用いることによって、細胞にストレスをかけずにヒトES/iPS細胞を大量培養できる方法の開発にも成功しています。これらを用いて、世界的にも例を見ない非常に効率の良い細胞増殖効率を得ることに成功しました。
本成果により、ヒトES/iPS細胞を効率よく培養することができ、目的組織細胞への分化誘導に必要な量の細胞を準備、創薬や再生医療の発展に寄与できることが期待されます。
図:今回開発された新基材で増殖したヒトES細胞
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 http://doi.org/10.1016/j.biomaterials.2017.01.039
Li Liu, Ken-ichiro Kamei, Momoko Yoshioka, Minako Nakajima, Junjun Li, Nanae Fujimoto, Shiho Terada, Yumie Tokunaga, Yoshie Koyama, Hideki Sato, Kouichi Hasegawa, Norio Nakatsuji, Yong Chen. (2017). Nano-on-micro fibrous extracellular matrices for scalable expansion of human ES/iPS cells. Biomaterials, Volume 124, Pages 47–54.
- 朝日新聞(2月9日 36面)、京都新聞(2月9日 25面)、産経新聞(2月9日夕刊 8面)、日刊工業新聞(2月10日 25面)、毎日新聞(2月10日 24面)、読売新聞(2月9日 35面)に掲載および朝日放送(2月9日 11時58分放送分)、KBS京都(2月9日 11時56分放送分)および読売テレビ(2月8日 18時18分、2月9日 5時38分放送分)で放送されました。