篠原隆司 医学研究科教授らの研究グループは、Myc/Mycn遺伝子による糖代謝のバランスが精子幹細胞の自己複製分裂の維持に重要な役割を果たすことを見出しました。
本研究成果は、2016年12月22日午前7時に米国科学誌「Genes and Development」誌に掲載されました。
研究者からのコメント
Myc/Mycnを介した解糖系の制御は精子幹細胞の自己複製に非常に重要な役割を果たしています。この経路を操作することで、より幅広い動物種からGS細胞の樹立や新規の生殖工学技術の開発の可能性が拓けてきました。臨床的にもこの研究成果は男性不妊の原因の理解やその治療法の開発にも役立つと考えられます。
また、組織幹細胞の培養は一般に困難ですが、GS細胞と同様に解糖系を刺激することで、これまで培養することができなかった他の組織幹細胞の培養系の確立にも貢献する可能性があります。
概要
精子幹細胞は精巣にある未分化な生殖細胞である精原細胞の一部の細胞で、自己複製と分化を繰り返し、個体の生涯にわたり精子を作り続けます。この細胞が自己複製分裂を持続的に行うことで個体の精子形成が一生にわたり継続します。
本研究グループは、今回Mycとそのファミリー分子であるMycn遺伝子を同時に破壊することで、これらの遺伝子による精子幹細胞の糖代謝バランスの維持が自己複製分裂の制御に重要な役割を果たすことを見出しました。
また、解糖系を刺激する小分子化合物PS48を用いることで、これまで精子幹細胞の長期培養ができなかったマウスから、長期培養を誘導することに成功しました。これは培養が困難である組織幹細胞の樹立を解糖系の刺激により克服した最初の例です。
本研究成果は新規の生殖工学技術の開発に加えて、男性不妊の原因の理解やその治療法の開発に貢献すると期待されます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 http://dx.doi.org/10.1101/gad.287045.116
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/230536
Mito Kanatsu-Shinohara, Takashi Tanaka, Narumi Ogonuki, Atsuo Ogura, Hiroko Morimoto, Pei Feng Cheng, Robert N. Eisenman, Andreas Trumpp, Takashi Shinohara.(2016). Myc/Mycn-mediated glycolysis enhances mouse spermatogonial stem cell self-renewal. Genes and Development, 30(23):2637–2648.
- 産経新聞(12月22日夕刊 8面)に掲載されました。