渡辺隆司 生存圏研究所教授、大田ゆかり 海洋研究開発機構グループリーダー代理、小泉俊雄 防衛大学校教授、秦田勇二 埼玉工業大学教授らの研究グループは、海洋から分離した細菌のもつ特異な酵素を組み合わせて利用し、木材から分離した天然リグニンから、さまざまなバイオプラスチックにも変換できる機能性化学品を生産する方法を見い出しました。
本研究成果は、 2016年12月16日にドイツの科学誌「ChemSusChem」電子版に掲載されました。
研究者からのコメント
海底堆積物に生息する微生物の多くは、海洋表層や陸域の森林土壌などで分解されずに残った有機物に依存しており、 地球表層の生態系では分解が困難な物質をなんらかの形で効率的に利用する優れた代謝機能を有していると考えられます。多様な海洋環境に生息する微生物がもつ代謝機能の理解を深め、その知見を基盤とするバイオマス活用技術開発を進め、持続可能な社会の構築へ向けた新たなイノベーションの創出に繋げて行きます。
また、本研究グループは、西村裕志 生存圏研究所助教、片平正人 エネルギー理工学研究所教授、中村正治 化学研究所教授らと共同で、リグニン変換酵素の反応メカニズム解明と実用性の向上を目指したさらなる研究を進めています。
概要
近年、温室効果ガス排出の低減を目指して、バイオマスなどの再生可能資源を有効活用するためのさまざまな研究が精力的に行われています。なかでも、木材をはじめとする非可食のバイオマスに多量に含まれるリグニンは、化石資源に替わる新しい化学品原料として大きな期待を集めています。
今回本研究グループが天然リグニンから酵素生産することに初めて成功した化合物は、フェニルプロパノンモノマーと呼ばれる物質で、これまでその活用法についてほとんど検討されていませんでした。
本研究では、天然リグニンから酵素でこの化合物を生産する手法に加えて、簡便な化学的手法によりバイオプラスチックや医薬・化粧品などの機能性化学品に変換できることを示しました。これらの成果は、酵素や微生物などの生体触媒の機能を化学産業に活用する異分野融合新技術(ホワイトバイオテクノロジー)に新しい展開をもたらすことが期待されます。
図:単離リグニンからのフェニルプロパノン化合物のワンポット酵素生産のイメージ図
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 http://dx.doi.org/10.1002/cssc.201601235
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/217686
Yukari Ohta, Ryoichi Hasegawa, Kanako Kurosawa, Allyn H. Maeda, Toshio Koizumi, Hiroshi Nishimura, Hitomi Okada, Chen Qu, Kaori Saito, Takashi Watanabe and Yuji Hatada. (2016). Enzymatic Specific Production and Chemical Functionalization of Phenylpropanone Platform Monomers from Lignin. ChemSusChem, 9.