高田彰二 理学研究科教授、清水将裕 同博士課程学生、片山勉 九州大学教授らの研究グループは、大腸菌を対象に新たに開発した計算手法を用いて、13個のタンパク質が規則的に集合して造られる、DNA複製開始複合体をコンピューター内で構築することに初めて成功しました。これにより、この複合体の精密な構造や働きまで見えるようになり、DNAの構造が変換するメカニズムを合理的に説明できるようになりました。
本研究成果は、2016年11月29日に米国科学アカデミー紀要に掲載されました。
研究者からのコメント
多くの病原性細菌の複製開始複合体も、今回扱った大腸菌のものと似ていることが予想されます。つまり、病原菌の増殖メカニズムの解明や抗菌剤や開発研究にも繋がる成果だと考えられます。また、DnaAタンパク質に似たタンパク質がヒト細胞の染色体DNA複製開始複合体でも主要な役割を果たしていることから、抗がん剤などの開発研究にも繋がる可能性があります。
今回開発した解析手法は、生命活動に重要な多くの複合体の構造解明のために活用できるものです。今後、より高度で複雑なタンパク質複合体の構造や働きの解明を計画しています。
概要
遺伝情報の継承のためには、遺伝子の実体となる染色体DNAの複製が必要です。染色体DNAの複製は、複製起点と呼ばれるDNA領域での開始反応から始まります。開始反応では、通常二重鎖であるDNAを開いて二つの一本鎖にします。そのようなDNAの開裂を起こすため、複製起点には多数のタンパク質が結合して、複雑で動的な構造体が造られます。これが複製開始複合体です。しかし、これまでその構造や働きをはっきり見ることができませんでした。
そこで本研究グループは、複製開始複合体の構造をコンピューターシミュレーションする研究(京都大学グループ)と生化学的に実験解析する研究(九州大学グループ)とを連携させて進めていきました。まず生化学実験情報を参考にして、粗い分子モデルを用いたシミュレーションによって複合体構造を組み立て、次にその構造をすべての原子を含む高精度分子モデルに焼き直しました。最後に高精度のシミュレーションを続けることで、これまで不可能であった多数のタンパク質とDNAを含む複製開始複合体をコンピューター内で構築することに成功しました。また、この複合体構造は生化学実験の結果とよく整合していることも確かめられました。
本研究成果により、開始複合体の構造や働きを原子レベルに近い精度で詳しく知ることができるようになりました。これは染色体DNAが複製するメカニズムを理解するために欠かせないものです。また、今回分かった開始複合体の構造や働きは、多くの生物に共通する基本的な生命原理である可能性もあります。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1609649113
Masahiro Shimizu, Yasunori Noguchi, Yukari Sakiyama, Hironori Kawakami, Tsutomu Katayama, and Shoji Takada. (2016). Near-atomic structural model for bacterial DNA replication initiation complex and its functional insights. PNAS.