植物は侵入してきた病原体を兵糧攻めにして撃退する -植物の新規防御メカニズムの発見と解明-

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高野義孝 農学研究科教授、山田晃嗣 日本学術振興会特別研究員(現徳島大学特任助教)、西條雄介 奈良先端科学技術大学院大学准教授、中神弘史 理化学研究所ユニットリーダーらの研究グループは、病原体が感染した際に植物細胞が糖吸収活性を増強させることで細胞外の糖を回収し、病原体の糖へのアクセスを阻害する機構を見出しました。

本研究成果は2016年11月24日付で米国の科学誌「Science」オンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、高野教授、山田特別研究員

今回、細胞外部の糖を回収し病原細菌の糖吸収を阻害する植物の新規防御応答を明らかにしました。病原細菌に限らず多くの植物病原体は炭素源として糖を利用しているため、幅広い細菌および菌類に対してもこの防御が有効であることが考えられます。そのため本成果を基盤とし、植物の糖吸収を高める化合物を発見できれば、より広範囲の病原体に有効な新規農薬の開発につながる可能性があると期待されます。

概要

炭素は生命体を構成する重要な元素の一つであり、植物は光合成により空気中の二酸化炭素から糖を合成し利用しています。しかし多くの生物が炭素を獲得するには、植物や他の生物から有機化合物を摂取する必要があります。細菌や菌類などの病原微生物が感染し増殖する際にも同様で、特に植物に感染する病原体は、植物が光合成産物として高濃度に蓄積した糖を主な炭素源として吸収し、利用しています。しかし病原体が植物から糖を搾取する一方、植物がそれに対抗する防御手段を備えているかはこれまで明らかにされていませんでした。

そこで本研究グループは、植物が細胞外空間の糖を細胞内へ回収することで病原細菌の糖摂取を阻害しているのではないかと考え、防御応答活性化時の植物細胞の糖の取り込み活性に着目して、モデル植物シロイヌナズナを用いた解析を行いました。

その結果、植物は防御応答の発動により糖トランスポーター(輸送体)活性を増強し細胞外の糖含量を減少させること、それが病原細菌の病原性因子の分泌抑制と代謝エネルギー制限につながり、病原細菌の増殖が抑えられることが明らかになりました。

(1)植物細胞は気孔から葉の内部に侵入してきた病原細菌を認識し防御応答を発動する。(2)糖輸送体(糖トランスポーター)STP13の485番目のスレオニン残基 (T485) がリン酸化される。(3)リン酸化を介してSTP13の糖吸収活性が強まることで細胞外の糖含量が減少し、(4)病原体の糖摂取が阻害される。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1126/science.aah5692

Kohji Yamada, Yusuke Saijo, Hirofumi Nakagami, Yoshitaka Takano. (2016). Regulation of sugar transporter activity for antibacterial defense in Arabidopsis. Science.

  • 京都新聞(12月27日 22面)、朝日新聞(11月25日 31面)、産経新聞(11月26日 25面)、日刊工業新聞(11月28日 20面)、毎日新聞(11月25日 26面)および読売新聞(11月25日夕刊 12面)に掲載されました。