松田建児 工学研究科教授、東口顕士 同助教、鶴岡徹 国立研究開発法人物質・材料研究機構主幹研究員、早川竜馬 同主任研究員、若山裕 同グループリーダーらの研究グループは、光異性化分子の薄膜に光を照射することで、トランジスタ回路などさまざまなデバイスを描画することに世界で初めて成功しました。光異性化分子は、光照射によって絶縁体と半導体の性質を交互に変更できるため、回路の書き換えや電流の制御も可能であり、今回の成果は論理計算デバイスの作成技術としても期待されます。
本研究成果は、2016年11月15日午後2時にアメリカ化学会が発行する「Nano Letters」誌オンライン版で公開されました。
研究者からのコメント
今回の成果は、光で分子構造が可逆に変化する光スイッチ分子の可能性を追求してきた研究の成果であり、単に有機トランジスタの新しい作製手法であるだけでなく、これまで有機エレクトロニクスが苦手としてきた微細化や複雑な回路設計への応用が可能です。将来的には論理演算デバイスの光描画も期待できます。
概要
光異性化反応とは、可視光や紫外光を照射すると分子の構造や電子状態が変化する反応です。変化後も照射する光の波長によって元に戻すことができるため、古くからメモリやセンサに応用できることが指摘されてきました。近年、有機トランジスタの中に光異性化分子を添加して、光に応答するトランジスタ素子の開発が活発になってきましたが、微量の光異性化分子を混合するだけであったため、光で誘起できる電流値の変化は2倍程度でした。一方、有機トランジスタ自身の製造技術としてフレキシブル基板に印刷で素子を作製する技術開発が進められています。しかし従来技術では有機分子が簡単に壊れてしまうため、微細化や回路設計に課題が残っていました。
本研究グループはこれまで、光異性化分子を直接トランジスタのチャネル層として使うことで1000倍を超える電流値の制御に成功していました。本研究では、この成果を発展させて、絶縁体状態の光異性化分子の薄膜に極細の光を照射して、一部を半導体にすることでトランジスタ回路を描画することを試みました。
その結果、独自に組み立てた光照射技術と電気特性評価技術を駆使して、ワイヤ状の一次元トランジスタチャネルを並列接合する技術、あたかもバルブで開閉するかのように局所的な光照射で電流の流れをON-OFFする光バルブ機能、Y字構造をしたトランジスタチャネルなど、これまでにない新しい動作原理やデバイス構造を実現しました。さらに、光を照射して絶縁体と半導体の性質を交互に変えることで、何度でも書き込みと消去を繰り返すことができるという要素技術(あるいは機能)をもとに、光強度を変えることで電流を段階的に制御できる加算回路の作製にも成功しました。
本研究成果は、科研費新学術領域研究「高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築」の一環として得られたものです。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
http://dx.doi.org/10.1021/acs.nanolett.6b03162
Tohru Tsuruoka, Ryoma Hayakawa, Kazuyoshi Kobashi, Kenji Higashiguchi, Kenji Matsuda, and Yutaka Wakayama. (2016). Laser Patterning of Optically Reconfigurable Transistor Channels in a Photochromic Diarylethene Layer. Nano Letters.
- 科学新聞(12月9日 4面)に掲載されました。