樋口洋子 情報学研究科特定研究員、齋木潤 人間・環境学研究科教授らは、被験者に80人の顔写真が配置されたパターンを観察させ、「性別の違う顔を探す」課題を与えると顔の特徴を、「位置の違う顔を探す」課題を与えると顔の位置を無意識に学習することが分かったとの研究成果を発表しました。
本研究成果は2016年8月26日(米国時間)にアメリカの雑誌Attention, Perception, & Psychophysicsで公開されました。
研究者からのコメント
ヒトはさまざまなものを無意識的に学習をすることが知られており、聞くだけで覚えられる学習教材や、町中の広告、テレビコマーシャルなど、私たちが意図しないうちの学習を狙ったものは日常生活のなかにも数多くあります。しかし、今回の実験で、無意識といえどもヒトは意外に情報を取捨選択をして学習していることが分かりました。このことから、潜在学習として成果を得るためには、ただ情報に触れるだけでなく情報に注意を向けるような仕組みをつくることが必要と考えます。この研究成果により、今後の潜在学習研究のさらなる発展が期待されます。
概要
ヒトは何かを学習しようという意図がないときにも、気がつかないうちに視覚場面の情報を学習しています。たとえば、毎日同じ本棚を見ていると、どの本がどこにあるのか正確に覚えていないのに、特定の本を探すときになんとなく場所がわかるというようなことがあります。これは、ヒトが本の配置を無意識に学習しており、そうした無意識の学習が注意や視線を誘導するためであると考えられます。このような無意識の学習を潜在学習とよびます。これまでの研究では、私たちがいろいろなパターン(たとえば、物体のレイアウトや形など)を潜在的に学習するということが解明されてきました。しかし、人間がたくさんの情報の中からなにを優先的に学習するのか、なにが私たちの潜在学習を左右するのかということは、明らかにするべき問題であるにも関わらずよくわかっていませんでした。
そこで、今回、本研究グループは、顔の写真でできた系列パターンを、「性別の違う顔を探す」課題と「位置の違う顔を探す」課題の二つに分けて、106人の大学生に繰り返し観察してもらう実験を行いました。
その結果、「性別の違う顔を探す」課題では、顔のパターンが繰り返されたときに顔を見つけるのが早くなる一方で、「位置の違う顔を探す」課題では、位置のパターンが繰り返されたときに顔を見つけるのが早くなりました。これらのことから、同じパターンを繰り返し見ていたとしても、行っている課題によって、潜在学習が左右されるということが明らかになりました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
http://dx.doi.org/10.3758/s13414-016-1198-0
Yoko Higuchi, Yoshiyuki Ueda, Hirokazu Ogawa, Jun Saiki. (2016). Task-relevant information is prioritized in spatiotemporal contextual cueing. Attention, Perception, & Psychophysics.
- 日本経済新聞(10月16日 23面)に掲載されました。