八代嘉美 iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)准教授、井上悠輔 東京大学医科学研究所准教授、標葉隆馬成城大学文芸学部専任講師らの研究グループは、ヒトの細胞を含むキメラ動物を使った研究に関して、一般の方と研究者を対象にアンケート調査を行い、研究者と一般の方との間に許容度の差があることを明らかにしました。
本研究成果は2016年8月5日午前1時に「Cell Stem Cell」で公開されました。
研究者からのコメント
今回のアンケート調査で、現時点では研究者と比較して一般の方々のキメラ動物を使った研究に対する許容度が低いことがあきらかになりました。一般の方々と研究者との認識の違いを埋めるために、研究者が継続的に情報発信や社会との議論を行いながら、一般の方々と研究者との間で相互理解をすることが重要です。
本研究成果のポイント
- キメラ動物を使った研究は科学の進歩において有用
- 研究者と一般の人との間で許容度に差があることが分かった。
- 研究内容について継続的にコミュニケーションすることが重要
概要
動物とヒトの細胞が混ざった動物、いわゆるキメラ動物を使った研究は、再生医療用のヒトの臓器を動物の体内で準備したり、ヒトの臓器の出来方を調べたり、さまざまな科学研究に役立つことが期待されています。日本ではヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律によりそうしたキメラ動物を作ることは認められておらず、人または動物の胎内に移植することを禁止したうえで、基礎研究に限って受精から14日までの胚であれば研究に利用しても良いとされていました。技術の進歩に伴って、もう少し進んだ研究まで認める方向で、ガイドラインの見直しが進められています。
こうした状況で、本研究グループは、一般の方々がキメラ動物を使った研究についてどのように考えているのか、研究者と比較するアンケート調査を行いました。すると、研究者と比較して一般の方々のキメラ動物研究に対する許容度は低く、また過去3年間を通じて変化していないことが明らかになりました。
このような一般の方々と研究者との認識の違いを埋めるためには、過度な期待をかきたてたり不安を煽ったりするようなことがおこらないよう、研究者が継続的な情報発信や社会との議論を行いながら、最新の研究状況について一般市民と共有し、理解を得るとともに一般の考えを理解することが必要です。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
http://dx.doi.org/10.1016/j.stem.2016.07.011
Yusuke Inoue, Ryuma Shineha and Yoshimi Yashiro. (2016). Current Public Support for Human-Animal Chimera Research in Japan Is Limited, Despite High Levels of Scientific Approval. Cell Stem Cell, 19(2), pp. 152–153.
- 京都新聞(8月5日 27面)、毎日新聞(8月10日 29面)に掲載されました。