DNAで「またいとこ」がわかる-新しい血縁判定法の開発-

ターゲット
公開日

玉木敬二 医学研究科教授、森本千恵 同博士後期課程学生、真鍋翔 同研究員らの研究グループは、口腔内細胞のDNAを用いて、これまでの方法では親子・兄弟までしか判定できなかった2人の間の血縁関係をまたいとこ(いとこの子ども同士)まで他人と区別できるDNA鑑定法を開発しました。本研究により、大規模災害などにおける身元確認の精度が非常に向上することが期待されます。

本研究成果は、2016年7月29日に米国科学誌「PLOS ONE」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、 玉木教授、森本博士課程学生、真鍋研究員

2人の血縁関係がかなり遠縁であっても高い精度で判定する方法を完成できて大変うれしく思っています。ただし、今回は口腔内の細胞から抽出したDNAを使用しましたが、身元確認のためご遺体から採取するのは、爪や歯、骨であることが多いです。このような試料ではDNAは長期間にわたって外環境にさらされて壊れていることがほとんどです。したがって、DNA型が正確に検査できない可能性があるため、すぐに実務応用はできません。現在、このような試料からも確実に判定できるよう研究を続けています。

本研究成果のポイント

  • これまでのDNA鑑定法では判断がほとんどできなかった2人の間の血縁関係(おじと甥、祖父と孫、いとこ同士、またいとこ同士など)でも、高い精度で判定できるようになった。
  • 大規模災害などにおける身元確認の精度が非常に向上することが期待される。

概要

ヒトの遺伝情報はDNA(デオキシリボ核酸)鎖の塩基という物質の並び方によって保存されています。DNAは人によって塩基の並び方の違いが見られる部分があり、この違いをDNA型として検出し個人を識別することをDNA鑑定と呼びます。

特に、DNA鑑定により、ある男の人がある子の父親かどうかなど個人の間の血縁関係の有無を判定するのが血縁鑑定です。DNAは非常に小さくたたまれて染色体として親から子へ伝わります(図)。血縁が近い人同士(親と子、兄弟同士など)は、血縁の遠い人や他人と比べて染色体の共有(図において染色体が同じ色の部分)が多いです。血縁鑑定では、この染色体の共有がどれほどあるかを検出し、血縁関係を判定します。ただし、現在のDNA鑑定法では、2人の間の血縁関係は親子、兄弟までしか完全には判断することができませんでした。

本研究グループは、2人の間の血縁関係を、遠い血縁関係(いとこ同士、またいとこ同士など)でも高い精度で判断できるDNA鑑定法を開発しました。本研究では、独自に考案した「染色体共有指標(Index of chromosome sharing : ICS )」という指標を用いることで、遠い血縁でのわずかな染色体の共有を検出することに成功しました。この方法を使うと、性別に関係なく、2人の関係が兄弟のような近い関係はもちろん、いとこ同士やある人とそのいとこの子ども、といった遠い血縁関係の場合でも、99.9%以上の確率で判断することができます。さらに、またいとこでも約94%の確率で他人と鑑別できることがわかりました。本研究により、大規模災害などにおける身元確認の精度が非常に向上することが期待されます。

図:家系内における染色体の伝わり方のイメージ

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0160287

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/216283

Chie Morimoto, Sho Manabe, Takahisa Kawaguchi, Chihiro Kawai, Shuntaro Fujimoto, Yuya Hamano, Ryo Yamada, Fumihiko Matsuda, Keiji Tamaki. (2016). Pairwise Kinship Analysis by the Index of Chromosome Sharing Using High-Density Single Nucleotide Polymorphisms. PLOS ONE, 11(7): e0160287.

  • 朝日新聞(8月23日 34面)、京都新聞(8月5日 28面)、日本経済新聞(8月5日夕刊 14面)、毎日新聞(8月5日 30面)に掲載されました。