寺尾知可史 学際融合教育研究推進センター特定助教(現ハーバード大学博士研究員)、吉藤元 医学部附属病院免疫・膠原病内科助教を中心とする共同研究グループは、聖マリアンナ医科大学や再発性多発軟骨炎(以下、RP)の患者会であるHORPと協力して102名のRP患者のDNAを集積し、白血球の血液型であるHLAの解析を行った結果、関連するHLA遺伝子型を三つ同定しました。
本研究成果は2016年5月30日にオックスフォード大学出版の学術誌「 Rheumatology 」に掲載されました。
研究者からのコメント
本研究は、世界的にも稀な疾患について多くの症例を集めて解析し、関連遺伝子型を同定できたことに意味があります。RPの遺伝的解析では、これまで世界最大の規模です。今後さらに検体数を増やして他のHLA遺伝子型や、HLA以外の関連遺伝子を見つけるように研究を続ける予定です。また、今回見つかったHLA遺伝子型のタンパクにおける影響を詳しく解析すれば、RPの原因となる物質が見つかる可能性もあります。
本研究成果のポイント
- 世界的にも希少な疾患であるRPの患者102名を解析し、白血球の血液型であるHLAの遺伝子型を健常人1000名と比較した。RPに関するこれまでで最大規模の解析
- RPと HLA-DRB1*16:02 , HLA-B*67:01 , HLA-DQB1*05:02 という三つの遺伝子型が関連していた。
- RPとの合併が報告される他のリウマチ性疾患に関わるHLA遺伝子型は、RPとは関連していなかった。
概要
RPは、耳、鼻、気管などの軟骨に炎症を来たす稀な疾患で、本邦で500-1000人の患者がいると推定されています。しかし、その遺伝的背景は明らかではありませんでした。
そこで、本研究グループは、合計102名の患者からDNAを得て、ヒト白血球の血液型であるHLAにおける6遺伝子の遺伝子型決定を行い、HLA研究所から提供を受けた健常人1000人のデータと比較しました。
その結果、三つの遺伝子が作り出すタンパクの構造を見てみると三つの遺伝子型のうち、 HLA-DQB1 についてのみ、それが作り出すタンパクを構成するアミノ酸の場所に強い関連が二つ見られ、その内の一つは別の免疫性疾患である I 型糖尿病に最も強く関連するアミノ酸の場所と同じでした。(図参照)
場所は同じでも関連するアミノ酸の種類は二つの疾患で異なりましたが、これは HLA-DQB1 が作り出すタンパクがRP発症においても重要であることを示唆するものと考えています。また、これまでRPとの合併が報告されてきた他のリウマチ性疾患等において最も強く関連するHLA遺伝子型の関連結果を今回のデータで確認したところ、RPとの関連は認められませんでした。このことは、RPが他のリウマチ性疾患とは異なる遺伝的背景を持つことを示しています。
図: HLA‐DQB1 が作り出すタンパク質
矢印で示したRPと強く関連するHLAのアミノ酸の場所二つの場所のうち、一つ(57番)はI型糖尿病に最も強く関連するアミノ酸の場所と同じであった。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
http://dx.doi.org/10.1093/rheumatology/kew233
Chikashi Terao, Hajime Yoshifuji, Yoshihisa Yamano, Hiroto Kojima, Kimiko Yurugi, Yasuo Miura, Taira Maekawa, Hiroshi Handa, Koichiro Ohmura, Hiroh Saji, Tsuneyo Mimori and Fumihiko Matsuda. (2016). Genotyping of relapsing polychondritis identified novel susceptibility HLA alleles and distinct genetic characteristics from other rheumatic diseases. Rheumatology.