長島卓也 薬学研究科博士課程学生、金子周司 同教授らの研究グループは、米国が公開している医薬品有害事象ビッグデータと、生体分子のシグナル伝達経路や遺伝子発現データベースを組み合わせて解析し、副作用の分子メカニズムを説明する仮説を導き出すとともに、その仮説を動物実験で実証する新しい試みに成功しました。
本研究成果は、2016年5月20日付 英国科学誌「サイエンティフィックレポーツ」誌(電子版)に掲載されました。
研究者からのコメント
このような医薬品有害事象のビッグデータと、生体遺伝子の発現や代謝データベースを組み合わせて仮説を導き出し、動物実験で実証する研究は世界でも新しい試みであり、すでに市販されている医薬品のリポジショニング(異なる適応症への新たな展開)による有害事象の軽減や回避のための具体的方策を提案できます。また、医療分野で今後蓄積されるさまざまなビッグデータを活用する研究の端緒になるものと期待されます。
概要
医薬品は望ましい薬効の他に、多くの場合で患者さんに好ましくない有害な副作用をもたらします。これを専門的には有害事象と呼びます。現在、臨床で起こったあらゆる有害事象は何百万件ものビッグデータとして蓄積され、公開されています。
しかし、医薬品の有害事象(副作用)の発生メカニズムはごく一部しか明らかになっていません。
本研究では、患者さんで実際に起きた有害事象の事例を蓄積したビッグデータを解析し、非定型統合失調症治療薬で起こる高血糖を軽減することができる併用薬としてビタミンDを見出し、それを動物実験で確認しました。さらにその分子メカニズムを遺伝子発現データベースや生体シグナル伝達マップを用いてPI3Kという酵素であると推定し、再び動物や細胞を用いて実証しました。
このような「リバース・トランスレーショナルリサーチ」は、薬学領域における新しい研究手法として今後の展開が期待できます。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
http://dx.doi.org/10.1038/srep26375
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/212474
Takuya Nagashima, Hisashi Shirakawa, Takayuki Nakagawa & Shuji Kaneko. (2016). Prevention of antipsychotic-induced hyperglycaemia by vitamin D: a data mining prediction followed by experimental exploration of the molecular mechanism. Scientific Reports, 6:26375.
- 京都新聞 (5月21日 29面)に掲載されました。