小林和也 農学研究科研究員(日本学術振興会特別研究員PD)と長谷川英祐 北海道大学農学研究院准教授は、オスとメスがいる有性系統とメスしかいない無性系統が同一地域に生息するネギアザミウマを対象として、オスへの投資が有性系統のコストになっていることを実証しました。
本研究成果は2016年4月1日午前10時(英国時間)に、英国科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。
研究者からのコメント
この研究ではオスへの投資がコストとなっていることを検証しました。有性生殖が普遍的にみられるということは多くの生物が当たり前のようにそのコストを支払っているということです。今後はそれによって生み出される多様性がどのように発達していくのかについて検証していきたいと考えています。
概要
本研究ではネギアザミウマという農業害虫に着目しました。ネギアザミウマにはオスとメスがいる有性系統とメスしかいない無性系統が同じ畑の同じ作物上に共存していることが知られています。そこで複数の圃場でそれぞれの系統の個体数を調べることで、有性系統のオスへの投資が本当にコストとなってネギアザミウマ集団に占める有性系統の割合を減らすかどうかを確かめました。その結果、有性系統のオスが多くなるとネギアザミウマ集団内で有性系統個体が占める割合が低下することを明らかにしました。この結果は有性系統が無性系統と競争する際にオスへの投資がコストになっていることを示しています。
さらに、ネギアザミウマの生態を模したコンピュータシミュレーションを用いて、
- 無性系統の侵入によって有性系統集団にオスへの投資を減らす性質が広がること
- これまでの定説では有性生殖が絶滅すると考えられていた条件下でもこの投資削減によって絶滅を回避できること
を確認しました。つまり、有性生殖のオスへの投資は状況に応じて減らすことができるため、これまで考えられていたよりも有性生殖は進化・維持しやすい性質であることが明らかになりました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
http://dx.doi.org/10.1038/srep23982
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/210024
Kazuya Kobayashi, Eisuke Hasegawa A female-biased sex ratio reduces the twofold cost of sex" Scientific Reports 6, Article number: 23982, Published online: 01 April 2016