危機回避行動を感覚ニューロンが調節するしくみを解明 -痛覚神経細胞の発火パターンが回避行動を選択している-

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公開日

寺田晋一郎 生命科学研究科博士後期課程学生、小野寺孝興 同博士後期課程学生、碓井理夫 同助教、上村匡 同教授らの研究グループは、モデル動物であるショウジョウバエの幼虫を用いて、体表をおおっている痛覚神経細胞が、二つの特徴的な神経活動パターンを介して個体の危機回避行動を巧妙に調節するしくみを明らかにしました。

本研究成果は、英国科学雑誌「eLife」誌でオンライン公開(日本時間2016年2月16日0時)されました。

研究者からのコメント

左から碓井助教、寺田博士後期課程学生、小野寺博士後期課程学生

有害刺激に動物がさらされたときに、どのようにして適切な回避行動を選択して生き延びるか、これまでよくわかっていませんでした。今回私たちは、感覚ニューロン自身の発火パターンが、回避行動パターンの選択を巧妙に調節していることを明らかにしました。今後、食害昆虫の回避行動パターンを詳しく調べることで、天敵を用いた生物的防除法の効率化をすすめるなど、さまざまな応用が期待できます。

概要

多くの動物は、外敵による攻撃や紫外線への暴露などさまざまな有害刺激にさらされています。ショウジョウバエの幼虫も例外ではなく、野外では天敵である寄生蜂の攻撃を受けています。寄生蜂に襲われた幼虫は、歩行速度を急上昇させる「ダッシュ行動」や、 寝返りを繰り返すような「スピン行動」をとって寄生蜂の攻撃をかわして生き延びます。いずれの回避行動も、全身の体表に張り巡らされた痛覚神経細胞が活動することが引き金となっています。しかし、どのようにして二つの行動パターン(「ダッシュ」と「スピン」)を個体が選択しているのか、これまでよくわかっていませんでした。

そこで、本研究グループは感覚ニューロンに局所的な刺激を与え、生理的な応答を高い精度で解析できる観察装置を準備し、さまざまな強度の高温刺激を与える実験をおこなったところ、ある温度以上の高温刺激を与えたときに、通常の「連続的な発火」に加えて、特徴的な「繰り返し群発発火」が発生することを見つけました。さらに、「繰り返し群発発火」の発生が、実際にスピン行動の選択に拍車をかけていることを示しました。このように、同一の感覚ニューロンが、刺激の強さ(温度の高低)に応じて質的に異なる発火パターン(「連続的な発火」と「繰り返し群発発火」)を臨機応変に作り出すことを通して、個体の行動パターン選択(ダッシュとスピン)を柔軟に調節していることが初めて示されました。

痛覚ニューロン自身が積極的に発火パターンを調節することで、個体の行動パターン選択を制御している。

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.7554/eLife.12959
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/208998

Shin-Ichiro Terada, Daisuke Matsubara, Koun Onodera, Masanori Matsuzaki, Tadashi Uemura and Tadao Usui
"Neuronal processing of noxious thermal stimuli mediated by dendritic Ca2+ influx in Drosophila somatosensory neurons"
eLife 5, e12959, Published February 15, 2016