河田照雄 農学研究科教授、後藤剛 同准教授、富永真琴 自然科学研究機構生理学研究所教授、内田邦敏 同助教、Sun Wuping 同研究員および岩田裕子 国立循環器病研究センター研究所分子生理部蛋白質機能研究室長の研究グループは、脂肪を分解して熱を発生させる細胞である「褐色脂肪細胞」に存在するTRPV2チャネルが、脂肪燃焼を促すことを明らかにしました。
本研究結果は、ヨーロッパ分子生物学会誌EMBO Report誌(2016年3月1日号)に掲載されます。
研究者からのコメント
今回の研究で、これまで謎であった褐色脂肪細胞の持つ熱産生機能の生理学的メカニズムを解明することができました。褐色脂肪細胞の活性化はエネルギー消費を促すことから、メタボリックシンドロームの治療や、肥満改善のターゲットとして今後ますます注目されると考えられます。そして褐色脂肪細胞のTRPV2チャネルの活性をコントロールすることで、メタボリックシンドロームを始めとしたさまざまな生活習慣病の予防と治療につながると期待されます。
概要
脂肪細胞には、いわゆる皮下脂肪や内臓脂肪などの白色脂肪細胞と、褐色脂肪細胞の2種類が存在します。白色脂肪細胞は細胞内に栄養を脂肪として貯蓄しますが、褐色脂肪細胞は脂肪を分解し、熱を産生することで体温の調節をします。
今回、本研究グループは、褐色脂肪細胞の細胞膜に存在するタンパク質の一種で細胞内へカルシウムを投下する役割を担うTRPV2チャネルに注目し、このTRPV2チャネルが褐色脂肪細胞に特に多く発現していること、そして寒い環境下ではチャネルの発現量が多くなることを発見しました。また、TRPV2チャネルは、冷たい刺激にさらされた際、熱産生を担うために増加する分子であるUCP1の発現量に関わっていることがわかりました。
さらに、TRPV2チャネルを持たないマウス(TRPV2KOマウス)を調べた結果、褐色脂肪細胞の熱産生機能が弱まり、冷たい刺激にさらされた時に体温を維持できなくなっていました。加えて、熱産生機能が弱いTRPV2KOマウスは、エネルギー消費が少なく肥満になりやすいこともわかりました。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.15252/embr.201540819
Wuping Sun, Kunitoshi Uchida, Yoshiro Suzuki, Yiming Zhou, Minji Kim, Yasunori Takayama, Nobuyuki Takahashi, Tsuyoshi Goto, Shigeo Wakabayashi, Teruo Kawada, Yuko Iwata, Makoto Tominaga
"Lack of TRPV2 impairs thermogenesis in mouse brown adipose tissue"
EMBO reports, Published online: February 11, 2016
- 科学新聞(3月4日 2面)に掲載されました。