尾原幸治 産官学連携本部特定助教(現在、公益財団法人高輝度光科学研究センター利用研究促進部門研究員)、森正弘 同特定研究員、塩谷真也 同特定研究員、荒井創 同特定教授、小野寺陽平 原子炉実験所助教、内本喜晴 人間・環境学研究科教授と三井昭男 トヨタ自動車株式会社材料技術開発部主任らの研究グループは、酸化物ガラスよりもリチウムイオン伝導率の高い硫化物ガラスの構造とイオン伝導の相関性について原子・電子レベルで解明しました。
本研究成果は、2016年2月19日午前10時(英国時間)付けで、英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。
研究者からのコメント
今回の研究では、放射光・中性子といった量子ビームを用いた先進的実験と第一原理理論計算を組み合わせて、優れたイオン伝導率を持つ次世代ガラス電解質の設計につながることを示しました。
蓄電池材料には、非晶質構造を持つガラスや液体で、構造と機能の相関が未解明なものが数多くあります。今後は、開発した技術をさらに発展させてメカニズム解明を進め、より優れた材料の創生につなげていきたいと考えています。
概要
プラグインハイブリッド自動車(PHV)や電気自動車(EV)における走行距離を伸ばすため、搭載されているリチウムイオン電池の電気容量の向上を目指し、リチウムイオン電池に使用されている電解液を固体電解質に変えた、全固体電池の開発が活発に行われています。全固体電池では、一つ一つのセルを包んだケースを形成する必要がなく、直接積層することができ、電池の小型化が可能となります。また、難燃性の固体電解質を使用することにより、電池の安全性が飛躍的に向上します。そのような全固体電池の固体電解質は、従来の電解液同様、充放電の時の正極と負極の間のリチウムイオンの橋渡し役を担っていて、固体電解質中のリチウムイオンの移動のし易さ(=イオン伝導率)が全固体電池の性能を大きく左右します。
種々の固体電解質の中でも、Li 2 SとP 2 S 5 を混合させたLi 2 S-P 2 S 5 系ガラスは高いイオン伝導率を示し、材料の組成(混合比率)および構造の乱れ具合によってリチウムイオン伝導率が異なることが知られています。しかし、そのリチウムイオン伝導のメカニズムやイオン伝導率を左右する要因は未だ不明でした。
そこで本研究グループは、高エネルギー放射光X線および中性子による回折実験と第一原理理論計算機シミュレーションを組み合わせ、リン導入硫化物ガラスの構造(原子配列)を詳細に解析しました。その結果、骨格構造(PSx)ユニットの分極性がキャリアであるリチウムイオンの伝導に強く影響を与えていることを発見しました。本研究よりガラス骨格構造の分極効果を最大限に高めつつ、キャリアであるリチウムイオン濃度を増やすことが高いイオン伝導率実現の要因であることを原子・電子レベルで明らかにしました。
今回の成果は、優れたイオン伝導率を持つ次世代ガラス電解質の設計に新しいコンセプトを示すもので、新しいガラス電解質の開発につながることが期待されます。
※ 本研究は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が共同で推進している革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISINGプロジェクト:PL 小久見善八 名誉教授)の一環で行われました。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep21302
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/205404
Koji Ohara, Akio Mitsui, Masahiro Mori, Yohei Onodera, Shinya Shiotani, Yukinori Koyama, Yuki Orikasa, Miwa Murakami, Keiji Shimoda, Kazuhiro Mori, Toshiharu Fukunaga, Hajime Arai, Yoshiharu Uchimoto & Zempachi Ogumi
"Structural and electronic features of binary Li2S-P2S5 glasses"
Scientific Reports 6, Article number: 21302 Published: 19 February 2016