体内時計を調節するオーファンGPCRの同定 -生体リズム調整薬の開発に期待-

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公開日

土居雅夫 薬学研究科准教授と岡村均 同教授らの研究グループは、生体リズム調整薬の開発に向け、体内時計を調節する新たなオーファンGPCRの同定に成功しました。

本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」誌で公開されました。

研究者からのコメント

左から岡村教授、土居准教授

G蛋白質共役受容体(GPCR)は薬理学上最も重要でかつ効率のよいターゲットとして知られる分子群ですが、いまだにその多くが機能未定のオーファン受容体です。このような背景の中、私たちは今回、体内時計を調節する新たなオーファンGPCRを同定しました。生体リズムの異常を伴う不眠症や生活習慣病の根本的な是正を目指した新しいタイプの治療薬の開発につながる知見だと期待しています。

概要

本研究グループは、生体リズムを調整するための有効な創薬標的分子として、今回新たに、G蛋白質共役受容体(GPCR)ファミリーに属するオーファン受容体分子Gpr176を同定しました。興味深いことに、Gpr176はGzという特殊なG蛋白質を介して体内時計のスピードを調節することがわかりました。

Gpr176の特徴は三つあります。一つは、GPCRであることです。GPCRは2012年のノーベル化学賞の受賞対象となった分子として記憶に新しいですが、創薬をする上で最も重要でかつ効率のよいターゲットとして大変よく注目される分子群です。二つ目は、体内時計の中枢に作用して時刻調整を行うことができる能力です。近年、全身の細胞に時計があることがわかりましたが(腹時計など)、その親玉である生体リズムの中枢は脳内の視交叉上核とよばれる特殊な神経細胞群にあります。Gpr176はこの親玉の時刻を調節するという大変優れた性質をもちます。そして最後に、本研究グループの詳しい調査の結果、Gpr176は従来解析されてきた他のGPCRとは異なり、Gzという特殊なG蛋白質を利用することがわかりました。Gpr176が発するGzシグナルが体内時計に効くのです。したがってGz-Gpr176の活性を制御することができれば体内時計の中枢を標的とした新しいタイプの生体リズム調整薬の開発が可能になると期待されます。

オーファンGPCRであるGpr176はGzを介して体内時計を調節する。Gpr176抗体によるマウス脳切片の免疫組織染色像を背部に示す。脳底に位置する一対の神経核がSCN。Gpr176はSCNに強く発現する。

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms10583
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/204599

Masao Doi, Iori Murai, Sumihiro Kunisue, Genzui Setsu, Naohiro Uchio, Rina Tanaka, Sakurako Kobayashi, Hiroyuki Shimatani, Hida Hayashi, Hsu-Wen Chao, Yuuki Nakagawa, Yukari Takahashi, Yunhong Hotta, Jun-ichirou Yasunaga, Masao Matsuoka, Michael H. Hastings, Hiroshi Kiyonari & Hitoshi Okamura
"Gpr176 is a Gz-linked orphan G-protein-coupled receptor that sets the pace of circadian behaviour"
Nature Communications 7, Article number: 10583 Published 17 February 2016

  • 京都新聞(2月18日 24面)、産経新聞(3月1日 27面)および日刊工業新聞(2月23日 29面)に掲載されました。