中浜直之 農学研究科博士後期課程学生(日本学術振興会特別研究員DC2)、井鷺裕司 同教授らの研究グループと内田圭 東京大学総合文化研究科特任研究員、丑丸敦史 神戸大学人間発達環境学研究科教授らの研究グループは、半自然草地性絶滅危惧植物であるスズサイコを材料に、生息地である草地の草刈り時期が本種の繁殖および遺伝的多様性に大きく影響することを解明しました。
今回の研究の成果は多くの草地性絶滅危惧種の保全に応用できる可能性が高く、草地性絶滅危惧植物の保全上極めて大きな意義を持ちます。
本研究成果は、2016年1月25日に、農業生態系と環境の相互作用に関する国際誌「Agriculture, Ecosystems and Environment」の電子版に掲載されました。
研究者からのコメント
日本国内の草地環境は人間による草刈りや火入れにより維持されている環境です。かつては採草地や放牧地として身近に見られましたが、高度経済成長期以降の草地の管理放棄や草地開発などにより、貴重な草地がどんどん失われていきました。そうした環境の変化に伴い、以前は普通に見られた草地性の動植物の多くが、簡単に見ることができないほどにまで減少してしているのが現状です。近年、生物多様性が注目を浴び、各地で絶滅危惧種の保全活動が盛んになってきています。しかし、どのタイミングで草刈りをおこなえば草地性の植物を効率的に保全できるかについてこれまであまり研究例がありませんでした。今回の研究成果が、草原性絶滅危惧植物の保全活動に貢献することができれば、これ以上の喜びはありません。
概要
中浜博士後期課程学生らの研究グループは、半自然草地性絶滅危惧植物であるスズサイコを材料に、生息地である草地の草刈り時期が本種の繁殖および遺伝的多様性に大きく影響することを解明しました。半自然草地の維持には草刈りや火入れなど人間による手入れが必要不可欠ですが、これまでどの時期に草刈りを行えば半自然草地性植物の保全に好適なのかを体系的に示した研究例は少なく、また遺伝的多様性に与える影響についてはほとんど知見がありませんでした。
本研究では、スズサイコの開花結実期(7月から9月)の草刈りは果実数および遺伝的多様性を減少させる一方で、冬季から春季の草刈りは果実数を増加させることを明らかにしました。スズサイコのように夏から秋にかけて開花結実を行う草地性絶滅危惧植物種は数多いため、今回の研究の成果は多くの草地性絶滅危惧種の保全に応用できる可能性が高く、保全上極めて大きな意義を持ちます。
各生育地における(a)繁殖成功および(b)遺伝的多様性。アレリックリッチネスおよびヘテロ接合度期待値はそれぞれ遺伝的多様性の指標としてよく用いられる値
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1016/j.agee.2016.01.029
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/204553
Naoyuki Nakahama, Kei Uchida, Atushi Ushimaru, Yuji Isagi
"Timing of mowing influences genetic diversity and reproductive success in endangered semi-natural grassland plants"
Agriculture, Ecosystems and Environment 221, Pages 20?27, 1 April 2016