高田昌彦 霊長類研究所教授を含む韓国と日本の複数の研究機関からなる本研究チームは、側坐核と呼ばれる脳部位の活動を興奮状態にすることにより音声チックを再現できるモデルザルの作出に世界で初めて成功しました。
本研究成果は、米国神経科学専門誌「Neuron」オンライン版に2016年1月21日午前2時(日本時間)に掲載されました。
研究者からのコメント
ヒトと似た脳の構造を持つマカクザルを使って、トゥレット障害の病態モデルを作製し、その発症メカニズムを明らかにしたことにより、今後、効果的な治療法の開発に進展が期待できます。
- 若年層に0.1%から1%の割合で発症し、社会生活に大きな支障をきたすことがある神経発達障害
- トゥレット障害で見られる音声チックの霊長類モデルを作出
- 音声チック発現に関わる脳部位と異常活動を霊長類モデルで特定
- メカニズム理解に基づく治療法開発に期待
概要
トゥレット障害は、咳払いや奇声などを発してしまう「音声チック」症状と、まばたきや顔しかめなどの動きを繰り返し行ってしまう「運動チック」症状が、ともに1年以上にわたって継続する神経発達障害で、18歳未満に0.1%から1%の割合で発症するといわれています。特に音声チックは、症状による肉体的・精神的苦痛に加え、しばしば周囲の誤解を招くことで社会生活に影響することがありますが、有効な治療法は現在も確立されていません。治療法の開発には、音声チックを呈するモデル動物の開発と、症状をもたらす脳のメカニズムの解明が急務でした。
日本と韓国の複数の研究機関からなる研究チームは、側坐核と呼ばれる脳部位の活動を興奮状態にすることにより音声チックを再現できるモデルザルの作出に世界で初めて成功しました。このモデルザルの脳活動をPETで調べたところ、発声に関わることが知られている前部帯状皮質という部位で脳活動が過剰に亢進していることを見出しました。さらに、側坐核、前部帯状皮質及び発声運動に関わる一次運動野(特に口腔顔面領域)の各部位の神経活動を電位測定により調べたところ、これらの部位の神経活動が同期することによって音声チックの症状が発現するという脳のメカニズムが明らかになりました。このメカニズムをターゲットにした音声チックの治療法の開発につながることが期待できます。
音声チックの症状を呈するモデルザル
A:記録したサルの鳴き声の音声データ。周期的な発声が確認された。
B:拡大した鳴き声の音声データ。下段は1から3のタイミングでの発声中のサルの口元の写真
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1016/j.neuron.2015.12.025
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/218583
Kevin W. McCairn, Yuji Nagai, Yukiko Hori, Taihei Ninomiya, Erika Kikuchi, Ju-Young Lee, Tetsuya Suhara, Atsushi Iriki, Takafumi Minamimoto, Masahiko Takada, Masaki Isoda, Masayuki Matsumoto.
"A Primary Role for Nucleus Accumbens and Related Limbic Network in Vocal Tics"
Neuron, Volume 89, Issue 2, Pages 300–307, 20 January 2016
- 日刊工業新聞(1月21日 23面)および科学新聞(1月29日 4面)に掲載されました。