堤璃水 日本学術振興会特別研究員(理学研究科)、阿形清和 理学研究科教授は、山田重人 医学研究科教授との共同研究で、これまで関節を再生することができないとされてきたカエルにおいて、はじめて機能的な関節の再生を引き起こすことに成功しました。この発見により、哺乳類においても機能的な関節再生の実現に向けて新たな知見がもたらされました。
イモリとカエルは同じ両生類に属しますが、イモリは変態後も関節再生能を維持できるのに対し、カエルは変態すると関節の再生能力を失うことが知られていました。今回の研究ではイモリの関節再生で見出された新たな再生原理「残存部と再生部の組織の相互作用」を意図的に起させるという新しい発想で、はじめて変態後のカエルにおける機能的な関節再生に成功しました。この発想を応用することで、将来ヒトを含む哺乳類においても関節再生を実現することができるようになるかもしれません。
本研究成果は、米国科学誌「Regeneration」誌に公開されました。
研究者からのコメント
われわれは、プラナリアやイモリといった「再生能力の高い動物に再生の原理を学ぶ」ことを行っています。基礎研究ではありますが、再生医療の実現に向けた新たな知見をもたらすものと考えています。プラナリアの再生からは、多能性幹細胞をどのように操作すれば三次元構造をもった脳や咽頭を再生できるかを学びました。プラナリアでは、多能性幹細胞に番地(位置情報と呼ばれる)を与えることで、すなわち座標を作ることで三次元構造が作られることを学びました(Umesono et al., Nature 2013)。イモリの関節再生からは、残存部と再生部との間での組織間調和作用によって、整合性のとれた三次元構造を再生できることを明らかにしました(Tsutsumi et al., Regeneration 2015)。そして今回、カエルで組織間調和作用を機能させれば、骨の構造のみならず上腕の筋肉が下腕に伸びて腱を形成することも可能であることを示しました。この発見は将来の再生医療に大きく貢献するものと期待しています。なぜなら、iPS細胞などから作った三次元構造物を傷んだ部分に移植する際、移植したものが、残存部と整合性のある構造物として生着する必要があるからです。移植したものがホストとは別の構造物にならないようにするにはどうしたら良いか、そのヒントは今回の発見から得られるのです。
概要
われわれ哺乳類では、関節を再生させることはできませんが、有尾両生類のイモリでは、成体になっても四肢をどこで切断しても関節を含む機能的な構造を再生することができます。一方、無尾両生類であるカエルは、変態前には関節を含む四肢をイモリと同じように再生できるのに対し、変態後には関節の再生能力を失ってしまうことから、関節を再生できる有尾両生類と、できない哺乳類をつなぐ架け橋となると考えられます。そこで、再生能力の高い動物に再生の仕組みを学び、その知見を再生能力の低い動物に応用することで、「再生できない動物を再生できるようにする」ことを目指し研究が行われました。
これまでのイモリを用いた研究で、イモリの前肢を肘関節で切断すると、根元に残存した組織と、そこから再生した組織が相互作用することで、残存部の組織と再生部の組織の構造が機能的に調和して関節が作られることが見出されました。そこで、この知見をカエルに応用し、カエルの前肢を肘関節で切断したところ、根元に残った肘関節の片割れに合うような肘関節構造が再生しました。しかも再生した肘関節は腱や靭帯も再生しており、自発的に動かすこともできる機能的なものであることもわかりました。これは、カエルにおける機能的な肘関節の再生に成功したはじめての研究です。今回の知見をもとに、哺乳類においても関節の再生を実現する新たな可能性が見出されるとともに、再生治療で移植したものと残存部とで調和のとれた構造を再生させるための新たな方法が提示されることが期待されます。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1002/reg2.49
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/210504
Rio Tsutsumi, Shigehito Yamada, Kiyokazu Agata
"Functional joint regeneration is achieved using reintegration mechanism in Xenopus laevis"
Regeneration, Accepted manuscript online: 20 OCT 2015
- 朝日新聞(12月22日 29面)、京都新聞(12月22日夕刊 8面)および産経新聞(12月22日 22面)に掲載されました。