幸福の神経基盤を解明

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佐藤弥 医学研究科特定准教授らの研究グループは、主観的幸福の神経基盤について、脳の構造を計測する磁気共鳴画像(MRI)と幸福度などを調べる質問紙で調べました。その結果、右半球の楔前部(頭頂葉の内側面にある領域)の灰白質体積と主観的幸福の間に、正の関係があることが示されました。つまり、より強く幸福を感じる人は、この領域が大きいことを意味します。また、同じ右楔前部の領域が、快感情強度・不快感情強度・人生の目的の統合指標と関係することが示されました。つまり、ポジティブな感情を強く感じ、ネガティブな感情を弱く感じ、人生の意味を見出しやすい人は、この領域が大きいことを意味します。こうした結果をまとめると、幸福は、楔前部で感情的・認知的な情報が統合され生み出される主観的経験であることが示唆されます。主観的幸福の構造的神経基盤を、世界で初めて明らかにする知見です。

本研究成果は、2015年11月20日に英国科学誌「Scientific Reports(サイエンティフィックリポーツ)」誌のウェブサイトに掲載されました。

研究者からのコメント

佐藤特定准教授

アリストテレスなどそうそうたる学者が取り組んできた「幸福とは何か」という問題に、自分なりの科学的解答が出せて、幸福です。

概要

幸福は、人にとって究極の目的となる主観的経験です。心理学研究は、主観的幸福が、質問紙で安定して計測できること、感情成分と認知成分から構成されていることを示してきました。しかし、主観的幸福が脳内のどこにどのように表現されているのかという神経基盤は不明でした。神経基盤を理解することで、この主観的な現象を客観的に調べることができ、また幸福が生み出されるメカニズムについての手がかりも得られます。

この問題を、佐藤特定准教授、魚野翔太 医学研究科特定助教、澤田玲子 医学研究科研究員、義村さや香 同特定助教、十一元三 同教授、河内山隆紀 ATR脳活動イメージングセンター研究員、久保田泰考 滋賀大学保健管理センター准教授のグループは、成人を対象として、脳の構造を計測する磁気共鳴画像(MRI)と幸福度などを調べる質問紙で調べました。

その結果、右半球の楔前部(頭頂葉の内側面にある領域)の灰白質体積と主観的幸福の間に、正の関係があることが示されました。つまり、より強く幸福を感じる人は、この領域が大きいことを意味します。また、同じ右楔前部の領域が、快感情強度・不快感情強度・人生の目的の統合指標と関係することが示されました。つまり、ポジティブな感情を強く感じ、ネガティブな感情を弱く感じ、人生の意味を見出しやすい人は、この領域が大きいことを意味します。こうした結果をまとめると、幸福は、楔前部で感情的・認知的な情報が統合され生み出される主観的経験であることが示唆されます。主観的幸福の構造的神経基盤を、世界で初めて明らかにする知見です。

今回の結果は、幸福という主観的な経験を、客観的・科学的に調べることができることを示します。今後、瞑想トレーニングが楔前部の体積を変えるといった知見と併せることで、科学的データに裏打ちされた幸福増進プログラムを作るといった展開が期待されます。

右楔前部と主観的幸福の間に示された正の関係。左図は脳の領域を指す。右図は体積と主観的幸福の関係を示す散布図

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep16891
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/201886

Wataru Sato, Takanori Kochiyama, Shota Uono, Yasutaka Kubota, Reiko Sawada, Sayaka Yoshimura & Motomi Toichi
"The structural neural substrate of subjective happiness"
Scientific Reports 5, Article number: 16891 Published online: 20 November 2015

  • 朝日新聞(11月21日 30面)、京都新聞(11月21日 29面)、産経新聞(11月21日夕刊 10面)、日本経済新聞(11月22日 30面)、毎日新聞(11月21日 29面)および読売新聞(11月21日 33面)に掲載されました。