構造材料の変形挙動に新たな視点 -強さとねばさを兼備した材料開発へ-

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田 艶中(Tian Yanzhong) 学際融合教育研究推進センター構造材料元素戦略研究拠点ユニット(ESISM)特定助教、柴田曉伸 工学研究科准教授、辻 伸泰 同教授らは、銅-アルミニウム(Cu-Al)合金において高い強度(通常粒径材に比較して5.6倍の降伏応力)と延性(引張伸び40%)を両立できることを発見しました。この現象は従来の理論だけでは説明できないものであり、「強さ」と「ねばさ」を兼備した材料の開発に新たな視点を提唱するものです。

本研究成果は11月19日に英国オンライン科学誌「Scientific Reports」誌(電子版)に掲載されました。

研究者からのコメント

左から辻教授、柴田准教授、田中功 工学研究科教授、落合庄治郎 名誉教授

構造材料は、我々の社会の安心と安全を支える重要な要素であり、我が国が高い競争力を持つ学問・産業分野です。今回の成果を発展させ、「強さ」と「ねばさ」を両立させた夢の構造材料実現に向けた基礎学理の構築を推し進めます。

概要

金属材料において高い強度と大きな延性を両立させるためには、変形後期まで十分な加工硬化特性を持たせることが必要です。本研究グループは、Cu-Al合金では、通常の転位の他に積層欠陥や変形双晶が塑性変形の担い手として活発に活動することで、高い加工硬化率が維持され大きな延性が実現されること、また粒径によって転位、積層欠陥、変形双晶の活動時期が変化し、それに伴って加工硬化挙動が大きく変わることを世界に先駆けて見出しました。特に、超微細粒材で積層欠陥や変形双晶の発現が活発化するという結果は、従来の予想とは逆のものであり、粒界から積層欠陥や変形双晶が新たに核生成する、超微細粒金属(バルクナノメタル)特有の現象と考えられます。

これを理解するためには従来の理論(転位論)だけでは不十分であり、新たな視点で解明していく必要があります。そうした基礎的理解が進めば、従来理論では限界があるとされていた「強さ」と「ねばさ」を兼備した材料が幅広い合金系・材料系で実現され、我々の社会の安心と安全を支える構造材料の世界に飛躍的な革新をもたらすことが期待されます。

3種類の平均粒径を有するCu-15Al合金の(a)公称応力-公称ひずみ曲線および(b)真応力-真ひずみ曲線

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep16707
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/201884

Y. Z. Tian, L. J. Zhao, S. Chen, A. Shibata, Z. F. Zhang, N. Tsuji
"Significant contribution of stacking faults to the strain hardening behavior of Cu-15%Al alloy with different grain sizes"
Scientific Reports 5, Article number: 16707
Published online: 19 November 2015

  • 日刊工業新聞(11月20日 21面)に掲載されました。