明和政子 教育学研究科教授、吉田千里 同研究員、平田聡 野生動物研究センター教授らの研究グループは、ヒトが他者の顔へ注意を向けるときの特徴とその発達のプロセスを初めて明らかにしました。
この研究成果は、2015年11月5日発行(アメリカ東部標準時間11月4日14時00分)の「PLOS ONE」に掲載されました。
研究者からのコメント
概要
ヒトやチンパンジーをはじめとする大型類人猿は、生後すぐから他者の顔(目)を反射的に検出し、持続的に見つめます。ヒトやチンパンジーはサルとは異なり、出生後、母親の身体に自力でしがみついていることができません。他者の顔に持続的に注意を向けることでその関心を自らに引き寄せ、養育行動を引き出す、生存可能性を高めるという適応的意義があるともいわれています。
しかし、成長するにつれ、ヒトとチンパンジーでは他者の顔の見方が大きく異なってきます。チンパンジーの成体は、ヒトに比べると他者の顔へあまり注意を向けません。行為に含まれる(操作している)物体へ注意を払うのです。他方、ヒトの乳児はよく顔を見ます。興味深いことに、ヒトの大人も顔へ注意を向けますが、乳児とは異なり、行為の流れによって顔への注意配分を変えます。予測したとおり行為が展開する(予測どおりの行為目的が達成される)と、顔へ注意を払わなくなるのです。
この現象について、本研究グループは、ヒトの乳児と成人とでは顔を「見る」ことの意味が異なると考えました。発達初期にみられる顔への選好、持続的な注意から、行為の流れにそって「他者の心の状態を推論する」ための注意へと質的に変化するのではないかと考えたのです。顔を「見る」から、顔を「読む」機能の獲得です。この考えが正しいとしたら、たとえば他者の行為が予測どおりの結末を迎えなかった場合、その心的状態をあらためて推論、理解する必要が生じるために顔への注意が高まると考えられます。
この仮説の妥当性を検証するため、ヒト(12か月、3.5歳、成人)とチンパンジー成体を対象に、アイトラッカー(視線自動計測装置)を用いて、他者の行為を観察している間の視線の時系列変化を比較する実験を行いました。
その結果、本研究グループが予想した通りの結果が得られました。予測どおり行為が展開していくと、ヒトの成人は顔への注意を減少させました。しかし、行為が予想に反して展開していくと、顔への注意が高まりました。一方、チンパンジーは、ヒト成人とはまったく異なる反応をみせました。顔へ注意を向けることはほとんどなく、行為の展開にそった変化もみられませんでした。ヒトの行為の見方の獲得時期についてみると、12か月児では行為主の顔を持続的に見ていましたが、3.5歳児はヒト成人と類似した見方をし始めていることがわかりました。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0139989
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/201379
Masako Myowa-Yamakoshi, Chisato Yoshida, Satoshi Hirata
"Humans but Not Chimpanzees Vary Face-Scanning Patterns Depending on Contexts during Action Observation"
PLOS ONE 10(11): e0139989 Published: November 4, 2015
- 京都新聞(11月5日 26面)、日本経済新聞(11月5日夕刊 14面)、毎日新聞(11月5日 26面)および読売新聞(11月8日 33面)に掲載されました。