シロアリの多様な巣の構造はいかにして生じるか? -集団による構造物形成の種内変異を引き起こすメカニズムの提示-

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公開日

水元惟暁 農学研究科博士後期課程学生(日本学術振興会特別研究員)、小林和也 同研究員(日本学術振興会特別研究員)、松浦健二 同教授らのグループは、シロアリが集団で作り上げる構造物に明確な種内変異が見られることを実験的に示し、その多様な構造を生み出すメカニズムを理論予測しました。

本研究成果は、2015年11月4日に、英国王立協会のオープンアクセス誌「Royal Society Open Science」にて掲載されました。

研究者からのコメント

生物は集団となることによって、大量の作業を効率化し、単独では不可能なことを可能にします。シロアリはその最たる例で、集団となることで個体サイズとは比べ物にならないような巨大な構造物を作り上げます。今回の研究では、個体レベルの反応の変化がどのように構造物に影響を与えるかを明らかにしました。これを基にして、社会性昆虫が異なる状況に応じて、どのように集団として柔軟にふるまうことが出来るかといった謎にアプローチしていくことが出来ると考えています。

概要

精巧で複雑な構造を持つアリ塚や張り巡らされた地下トンネルのように、アリ・ハチ・シロアリのような社会性昆虫は、多数の個体からなる集団が協力することで、巨大な構造物を作り出します。彼らの構造物形成では、われわれヒトの構造物形成とは大きく異なり、リーダーや設計図は存在しません。それぞれの個体は認知できる狭い範囲の情報にのみ反応し、互いの行動に影響を与え合うことだけで、全体としては秩序だった構造物を作ることができます。これは自己組織化と呼ばれ、彼らの建設は単純な規則によって行われるにも関わらず、種内においてさまざまな形や大きさの構造物を作り上げます。種内変異が生じる要因は環境の影響や集団サイズが調べられてきましたが、同一条件下で生じる種内変異についてはほとんど知見がありませんでした。

今回本研究チームは、シロアリの蟻道建設行動に注目して、彼らが同じ環境下においてもコロニー間で明確に異なる構造物を作り上げることを示しました。また構造物建設に与える要因を調べるために、シロアリの蟻道建設行動を模した格子モデルを構築し、建築シミュレーションを行いました。その結果、シロアリが建設行動において用いる揮発物質であるセメントフェロモンへの感受性と、建設行動に参加する個体の割合の二つを変化させることによって実験で見られた構造物のパターンと非常によく似たパターンを再現することが出来ました。

この研究成果は、個体レベルの反応の変異と集団レベルの形質である構造物の変異を初めて結びつけたものであり、シロアリだけでなく、集団生活を営むさまざまな生物が建設する構造物の種内変異を理解する上で、極めて重要な意味を持ちます。

実験で実際にシロアリが建設した構造と、シミュレーションによって再現された構造の比較

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1098/rsos.150360

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/201375

Nobuaki Mizumoto, Kazuya Kobayashi and Kenji Matsuura
"Emergence of intercolonial variation in termite shelter tube patterns and prediction of its underlying mechanism"
Royal Society Open Science 2: 150360, Published 4 November 2015

  • 京都新聞(1月5日 27面)に掲載されました。