望月圭 こころの未来研究センター研究員と船橋新太郎 同教授は、眼球運動方向の自由選択課題をサルに訓練し、その間の神経活動を記録することで、選択肢呈示の数百ミリ秒前に前頭連合野外側領域の神経細胞が有する活動の強弱によって、サルの直後の選択にバイアスがかかることを明らかにしました。さらに自由選択条件下における神経細胞活動の個体の選択への影響は、前頭連合野の細胞がもつ情報を短期的に保持するはたらきと密接な関係があることがわかりました。
本研究成果は、2015年10月21日に米国生理学会が発行する科学雑誌「Journal of Neurophysiology」誌の電子版に掲載されました
研究者からのコメント
左から望月研究員、船橋教授
前頭連合野の持続性の活動を示す神経細胞は、これまで情報の一時的な保持を担うと考えられてきました。今回、このような神経細胞のもつ活動状態を持続する性質が、自由選択場面においては、選択肢が現れる前の偶然の活動状態の強弱を持続させ、各選択肢に対応した脳内での応答の強さを不均等にすることで、選択にバイアスをかける要因となっていることを明らかにしました。個々の神経細胞のもつ基本的な活動特徴をもとに、さまざまな状況における細胞活動の機能を理解することは、認知神経科学研究の大きな醍醐味です。こうした研究により、私たちの何気ない普段の行動が、どのような神経メカニズムによって支えられているのかを解明していきたいと思っています。
概要
自身の行動を選択するとき、われわれは、それぞれの選択肢の損得の大小や、どちらの選択肢のほうが慣れているかなど、さまざまな情報を手がかりに選択を行ないます。しかしそういった外的な手がかりが一切なく、どの選択肢でも得られる結果はおなじという状況でも、われわれは自身の意思で内発的に選択を行なうことができます。この自由選択行動の遂行には大脳皮質の前頭連合野が関与すると考えられてきましたが、神経細胞(ニューロン)レベルでの詳細なメカニズムは知られていませんでした。そこで本研究グループは、2ヶ所に同時に視覚刺激を呈示し、サル自らがどちらかの位置を選んでその位置へと視点を動かす自由選択の眼球運動課題を作成し、課題遂行中の前頭連合野ニューロンの活動を調べました(図A)。
その結果、サルが眼球運動によって視野内のある位置を選ぶとき、その位置の情報を担う前頭連合野のニューロンの活動がもともと強かったということがわかりました(図B)。ニューロン活動の強さの違いは選択肢が呈示される数百ミリ秒前からみられはじめたため、これは選択の結果を反映した活動ではなく、前頭連合野ニューロンが事前に有していた自発的な活動の強弱が、その後の個体の選択にバイアスを与えたことの証拠だと考えられます。すなわち、選択肢のどれでも自由に選択できる状況では、選択直前の前頭連合野のニューロンの活動状態によって、どの選択肢を選ぶかがある程度決められていることがわかりました。
(A)使用した自由選択課題。サルは視覚刺激によって示された画面上のランダムな2ヶ所のうち、どちらか一方を選び、数秒の遅延後、その位置へ眼球運動を行なった。(B)前頭連合野ニューロンの活動。画面上に呈示される選択肢がまったくおなじ条件でも、最終的にサルが異なる選択をした場合、ニューロンの活動は選択肢が現れる数百ミリ秒前から違っていた。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1152/jn.00255.2015
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/208399
Kei Mochizuki, Shintaro Funahashi
"Prefrontal spatial working memory network predicts animal's decision-making in a free choice saccade task"
Journal of Neurophysiology, Published 21 October 2015
- 京都新聞(11月10日 31面)に掲載されました。