竹元博幸 霊長類研究所研究員、川本芳 同准教授、古市剛史 同教授の共同研究で、ヒト科の進化の舞台と種分化の過程に関する新しい説を提唱しました。
本研究成果は米国科学誌「Evolutionary Anthropology」誌オンライン版に10月19日付けで掲載されました。
研究者からのコメント
アフリカの環境や地形の変動の歴史に関する最新の情報に、現生の類人猿の遺伝学・生態学的知識を重ね合わせ、ヒト科の進化に関して魅力的な仮説を提示できたと思います。
概要
従来ヒト科に属するゴリラ、チンパンジー、ボノボ、ヒトの共通祖先はアフリカ中央部にひろがる熱帯雨林で進化したと漠然と考えられていました。しかし、近年の石油探査のためのコンゴ川河口部のボーリング調査などで、中央部のコンゴ盆地を取り囲むコンゴ川の成立が従来考えられてきた180万年から260万年前ではなく、新しく見積もっても3400万年前には成立しており、その南側の熱帯林にはヒト科の共通祖先はいなかった可能性が高いことが分かりました。
ゴリラと他のヒト科の分岐が1000万年ほど前、チンパンジーならびにボノボの祖先とヒトの祖先の分岐が600万年から700万年ほど前とされているので、そういったヒト科の種分化が起こるはるか前からコンゴ川はコンゴ盆地南側を北側の森林地帯から分離する自然のバリアとして存在しており、ヒト科の進化と種分化は北側の地域で起こったことになります。そしてボノボは、今から100万年または180万年ほど前に起こったアフリカの厳しい乾燥期に、一時的に浅くなったコンゴ川を渡ってコンゴ盆地に侵入し、そこで独特の進化を遂げたことになります。
この仮説は、ゴリラ、チンパンジー、ボノボそれぞれの生態や行動がいつどこでどのように進化したかを考える上で、大きな意味を持ちます。また、近年アフリカ各地でヒトの古い祖先の化石が次々に発見されていますが、そもそもヒトの誕生はアフリカのどこで起こったのかという論争にも、大きなヒントをもたらすことになります。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1002/evan.21456
Hiroyuki Takemoto, Yoshi Kawamoto and Takeshi Furuichi
"How Did Bonobos Come to Range South of the Congo River? Reconsideration of the Divergence of Pan paniscus from Other Pan Populations"
Evolutionary Anthropology 24:170–184 Article first published online: 19 OCT 2015
- 朝日新聞(12月17日 19面)および産経新聞(11月24日 22面)に掲載されました。