梶弘典 化学研究所教授らは、安達千波矢 九州大学最先端有機光エレクトロニクス研究センター センター長と共同で、理論化学計算に基づいた有機分子の精密な設計により、励起子の挙動制御を可能とし、効率100%で電気を光に変換する有機エレクトロルミネッセンス材料を高性能化することに成功しました。
本研究成果は、2015年10月19日(月曜日)午前10時(英国時間)に国際学術雑誌「Nature Communications」のオンライン版で公開されました。
研究者からのコメント
今回の分子は、素子寿命も改善されるように設計したつもりです。今後、長寿命化が実証できればと考えています。また、今回の設計は一分子に対するものですが、今後、多数の分子からなる多層薄膜系へと発展させ、有機EL素子内部において起こっている現象を包括的に理解するとともに、さらなる設計指針を得ることを目指します(梶弘典)。
理論化学計算に基づいた分子設計指針が確立されことから、新しい材料をコンピュータ上で自在に設計できるようになりました。今後、更なる材料特性の向上と新規材料を活用した、新しい有機デバイスへの展開が期待されます(志津功將)。
本有機ELは、デバイス構造が簡単であり、既存のありふれた周辺材料を用いているにもかかわらず40%を超える高い外部量子効率を示しました。デバイス構造の工夫や優れた周辺材料の利用により、更なる高効率化が期待されます(福島達也)。
今回、高輝度領域においても高い特性を示す材料の開発に成功しました。今後、分子構造の改善などにより、さらに高特性の材料が開発されることを期待しています(鈴木克明)。
TADFのコンセプトが大きく開花し、大変うれしく思います。今後、TADFの着実な実用化と更なる革新的な有機発光材料の開発への展開を期待しています。また、有機光エレクトロニクスの研究分野で、今後、九大と京大の連携がさらに深まることを期待しています(安達千波矢)。
概要
有機エレクトロルミネッセンスデバイス(有機EL)は、電気を光に変える素子であり、次世代のディスプレイや照明への応用が期待されています。今回、新たに開発した材料DACT-IIは、イリジウムや白金といった希少元素を含まない、水素・炭素・窒素のみからなる材料で、高い発光特性を広い温度範囲および輝度領域において発揮します。また、この分子は、有機ELにおける光取り出しに有利な分子配向を有しており、さらに、簡単なμレンズからなる光取り出しシートを用いることにより、外部量子効率41.5%を有する有機ELの実現を可能としています。薄膜状態におけるガラス転移温度も192度から197度と高く、耐熱性にも優れた材料です。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms9476
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/200697
Hironori Kaji, Hajime Suzuki, Tatsuya Fukushima, Katsuyuki Shizu, Katsuaki Suzuki, Shosei Kubo, Takeshi Komino, Hajime Oiwa, Furitsu Suzuki, Atsushi Wakamiya, Yasujiro Murata, and Chihaya Adachi
"Purely organic electroluminescent material realizing 100% conversion from electricity to light"
Nature Communications 6, Article number: 8476 | doi:10.1038/ncomms9476
Published 19 October 2015
- 日経産業新聞(10月20日 8面)に掲載されました。