高田昌彦 京都大学霊長類研究所教授と川合隆嗣 筑波大学研究員(前関西学院大学大学院生)、松本正幸 同教授、佐藤暢哉 関西学院大学教授らは、動物が嫌なことを避ける学習をしているときに、二つの脳領域が役割を分担して活動していることを発見しました。
本研究成果は、2015年10月15日(日本時間16日午前1時)に米国の科学雑誌「Neuron」にオンライン公開されました。
研究者からのコメント
今後は、脳内の二つの領域の役割分担を明らかにしていくことによって、嫌なことを避ける脳のはたらきの全体像を解明していくことが求められます。
本研究成果のポイント
- 嫌なことを避ける学習のために、二つの脳領域が役割分担していることを発見しました。
- 外側手綱核という領域は嫌なことが起こったことをいち早く検出しており、前部帯状皮質という領域は現在ばかりでなく過去の嫌な経験を記憶して、将来の行動を適切に変えることに関わっていました。
- 今回の成果は、脳が学習するメカニズムを理解することに加え、学習の障害に関わる神経基盤を解明することにも繋がるものと期待されます。
概要
先行研究によって、嫌なことが起こったときには、脳内の複数の領域が強く活動することが知られています。ところが、そうした複数の脳領域がどのように協調して嫌なことを避ける学習を実現しているのかは、明らかではありません。
本研究グループは、今回、嫌なことを避ける学習に関わる脳のはたらきを明らかにするために、認知機能が発達したマカク属のサルに学習課題を訓練し、そのときの脳活動を記録しました。その際、嫌なことが起こったときに強く活動することが知られている、外側手綱核と前部帯状皮質と呼ばれる二つの脳領域の活動に着目しました。実験の結果、外側手綱核は嫌なことが起こったことをいち早く知らせるような役割を示しました。一方、前部帯状皮質は現在や過去に起こった嫌な経験を記憶して、将来の行動を適切に変えるような役割を示しました。
今回の発見は、脳が嫌なことから学習するメカニズムの理解を深めるばかりでなく、学習の障害の原因となる神経基盤解明にも繋がるものと期待されます。
A: 一試行の流れ。サルが注視点を一定時間見ると、両脇にターゲットが呈示されます。どちらか一方のターゲットを目で見て選択すれば50%の確率で報酬が得られますが、もう一方を選んでも報酬は得られません。報酬が得られるターゲットの位置はサルにはわからないタイミングで入れ替わります。サルはこの課題を一日あたり数百試行行ないます。
B: サルの行動の典型例。サルが選んだターゲットの位置とその結果(報酬or無報酬)を表しています。左選択/右選択はサルが選んだターゲットの位置を指します。水滴は報酬が得られたことを表し、×印が付いたものは報酬が得られなかったことを表します。図の横軸は50%で報酬が得られるターゲットの位置が入れ替わってからの試行数を指します。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1016/j.neuron.2015.09.030
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/218582
Takashi Kawai, Hiroshi Yamada, Nobuya Sato, Masahiko Takada, Masayuki Matsumoto
"Roles of the Lateral Habenula and Anterior Cingulate Cortex in Negative Outcome Monitoring and Behavioral Adjustment in Nonhuman Primates"
Neuron 88, Published Online: October 15, 2015