光を使って神経細胞の「痛み」感知を制御する手法を開発 -新しい鎮痛療法の可能性-

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村上達也 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)特定拠点准教授らの研究グループは、ナノメートルサイズの金粒子を使って、痛みを感知する神経細胞を光で活性化する手法を開発することに成功しました。この成果は、細胞機能をリモートコントロールする新しい技術としてだけでなく、神経痛・脳腫瘍などの光治療法として期待されます。

本研究成果は8月6日に独オンライン科学誌「Angewandte Chemie (アンゲヴァンテ・ケミー)」で公開されました。

研究者からのコメント

村上特定拠点准教授

今回用いた金粒子は、小分子化合物に比べて、局所投与部位に留まる性質があります。今後、この金粒子を疾患部位に局所投与して近赤外光照射するという新たな光治療法の開発などが期待されます。

概要

私たちが痛みを感じるとき、ある種の神経細胞が活性化しています。その神経細胞の細胞膜上にあるTRPV1というイオンチャネルが痛みに繋がるさまざまな刺激(熱、酸、カプサイシンなど)を感知し、カルシウムイオンなどを細胞内に流入させることで痛みを伝達します。TRPV1は神経痛や脳腫瘍の病原として知られています。従って神経細胞のTRPV1を望みの場所・時間で活性化できれば、身体に負担の少ない治療法になる可能性がありますが、その方法は知られていませんでした。

今回の研究では、ナノメートルサイズの棒状の金(金ナノロッド、以下AuNR)を用いました。AuNRは私たちの体に最も影響の少ない近赤外光を吸収し、発熱したり、発光したりするなど、様々な応答性を示す物質です。そこでこのAuNRをTRPV1近傍に輸送し、光照射による発熱作用を利用してTRPV1を活性化することを試みました。AuNRをTRPV1の存在する細胞膜に安全に輸送するには、慎重なAuNR表面処理が必要です。そこで生体材料(高比重リポ蛋白質、以下HDL)を独自に改変してAuNRの表面処理に利用してみると、TRPV1を発現する細胞の細胞膜に多量のAuNRが膜ダメージを与えることなく輸送されることを発見しました。この細胞に近赤外光照射すると、細胞膜近傍でのみ温度が上昇し、TRPV1の活性化を介してカルシウムイオンの流入がおきました。マウス脊髄から採取した痛みを感知する後根神経節細胞を用いても同様の結果が得られ、生理的条件下でも本手法は機能することがわかりました。


今回の研究のまとめ

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1002/anie.201505534

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/199567

Hirotaka Nakatsuji, Tomohiro Numata, Nobuhiro Morone, Shuji Kaneko,
Yasuo Mori, Hiroshi Imahori, Tatsuya Murakami
"Thermosensitive Ion Channel Activation in Single Neuronal Cells by
Using Surface-Engineered Plasmonic Nanoparticles"
Angewandte Chemie International Edition 54, Article first published
online : 6 AUG 2015