受精直後の遺伝子発現が着床後の発生に影響 -生殖補助医療の効率アップに期待-

ターゲット
公開日

南直治郞 農学研究科准教授、鈴木伸之介 同博士課程学生(当時)らの研究グループは、受精直後のクロマチンリモデリング因子Chd1が、Hmgpiという受精卵特異的な転写因子の発現を介して、多能性の維持に機能するOct4や胎盤の分化に関わるCdx2などの遺伝子発現を制御し、着床後の発生を左右することを解明しました。

本研究成果は、6月30日(英国時間)付けにて、英国生物学専門誌「Development」誌に掲載されました。

研究者からのコメント

左から南准教授、鈴木博士課程学生(当時)

私たちは、これまで受精卵の発生を制御する要因について、さまざまな研究を行ってきましたが、今回受精直後のChd1が、着床後の産子への発生率に影響を及ぼしていることを証明できました。この研究成果は、人の不妊治療において、受精直後の特定の遺伝子の発現量を調べることによって、どの受精卵を母胎に戻せば高率に子供にまでなるかを判定できる技術開発にも結び付き、不妊治療を受けている女性の負担を軽減でき、高い妊娠率および出産率が期待できます。

概要

初期胚の発生に関わる遺伝子発現の制御には、エピジェネティックな要因が深く関わっていることが知られています。今回は遺伝子発現を正に制御するクロマチンに含まれるヒストンH3タンパク質の4番目のリジン残基(H3K4)のメチル化に注目し、H3K4がトリメチル化(H3K4me3)されたときにそれを認識し、遺伝子発現を促進するクロマチンリモデリング因子Chd1の受精卵における機能解析を行いました。

受精直後にChd1をRNA干渉(siRNA:small interfering RNAを受精卵に顕微注入して、目的の遺伝子を抑制する方法)と呼ばれる方法で抑制すると、胚盤胞期までの発生過程において形態的な異常は全く観察されませんが、着床後に異常が起こり産子に至る率が著しく低下することが明らかになりました。Chd1を抑制した受精卵にHmgpiのmRNAを同時に顕微注入すると産子に至るまでの発生能が回復しました。以上のことから、受精直後のChd1がHmgpiの発現を介して、正常な産子に至るまでの遺伝子発現を制御していることが明らかになりました。


受精直後の発生過程と遺伝子発現

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1242/dev.120493

Shinnosuke Suzuki, Yusuke Nozawa, Satoshi Tsukamoto, Takehito Kaneko, Ichiro Manabe, Hiroshi Imai, and Naojiro Minami
"CHD1 acts via the Hmgpi pathway to regulate mouse early embryogenesis"
Development 142 pp. 2375-2384, July 1, 2015

  • 京都新聞(7月25日 15面)および日本経済新聞(6月30日 42面)に掲載されました。