小野輝男 化学研究所教授らのグループと、内橋隆 物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)研究者、ジョナサン・ヒル 同研究者、中山知信 同ユニット長、クリスチャン・ヨアヒム 同主任研究者(フランスCEMES/CNRSグループリーダー兼任)らからなる研究チームは、金属基板の上で超分子を用いた分子モーターを作製し、超分子を構成する分子同士の結合を組み替えることで、モーターを逆回転させるという柔軟な動作を実現しました。
本研究成果は、米国化学会発行の「Nano Letters」誌に平成27年6月22日に掲載されました。
研究者からのコメント
人工分子モーターの動作を調べることで、生体内の天然の分子モーターが動く詳細なメカニズムの解明につながることが期待されます。
概要
分子モーターは生物の生命活動を維持するために欠かせないナノマシンの一種であり、このナノマシンによって構成された機械的システムを、生物の体内と同じように自己組織化の手法を用いて作製することは、ナノテクノロジーが掲げる夢の一つです。これまで、基板表面上で有機分子を使った分子モーターが作られてきましたが、モーターの回転方向を切り替えることができないという大きな問題がありました。これはモーターを構成する分子同士が強い力によって結合されているため、構造上、柔軟性に乏しいことが原因でした。
今回、研究チームは、超分子を用いることで柔軟な構造をもつ分子モーターを作製し、モーターの回転方向を切り替えることに初めて成功しました。超分子は、構成単位となる複数の分子が、共有結合より弱い水素結合などの力によって結びついてできた複雑な構造をもつ分子です。超分子で作製された分子モーターは、分子内に注入された電流によって一方向に回転します。さらに、ある条件下で電流を流すことで、モーターの部位を組み替え、これにより回転方向を反転させることに成功しました
走査トンネル顕微鏡で観察した人工分子モーターの回転の様子。(a)ではキラリティが正で、時計方向に回転し、(b)ではキラリティが負で、反時計方向に回転する。(c)は負電圧下の電流注入で、キラリティが正から負に反転した様子を表す。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1021/acs.nanolett.5b01908
Puneet Mishra, Jonathan P. Hill, Saranyan Vijayaraghavan, Wim Van
Rossom, Shunsuke Yoshizawa, Maricarmen Grisolia, Jorge Echeverria,
Teruo Ono, Katsuhiko Ariga, Tomonobu Nakayama, Christian Joachim, and
Takashi Uchihashi
"Current-Driven Supramolecular Motor with In Situ Surface Chiral
Directionality Switching"
Nano Letters Publication Date (Web): June 22, 2015