伊藤雅之 東南アジア研究所助教、小林由紀 総合地球環境学研究所研究員、奥田昇 同准教授、福井学 北海道大学低温科学研究所教授、夏復國 博士(台湾中央研究院)らの国際研究グループは、強力な温室効果ガスであるメタンの亜熱帯湖沼における動態を調査し、暖冬による湖の不完全な鉛直混合が翌夏の湖底でのメタン生成の増大に繋がることを明らかにしました。これらの結果は温暖化が進んだ際に、琵琶湖など日本にも多く存在する亜熱帯湖のメタン動態がどのような影響を受けるか、ということを考える上でも重要なヒントを与えるものです。
本研究成果は、米国地球物理学連合(American Geophysical Union)の科学誌「Journal of Geophysical Research-Biogeosciences」オンライン版に6月1日付けで掲載されました。
研究者からのコメント
本研究の成果から、暖冬の翌夏には湖底でのメタン生成が増大することが明らかになりました。このことは、日本の湖においても、温暖化が進み暖冬の頻度が増 えるような場合には、メタンの湖底での蓄積や湖面からの放出が増える可能性を示しています。
湖のメタン動態にはまだまだ未解明の部分がありますが、このような詳細なフィールド観測により、湖での温暖化ガスの動態解明が進むと考えています。
本研究成果のポイント
- 亜熱帯ダム湖で暖冬時の不完全混合が、翌夏の湖底のメタン生成を助長することを発見した。
- 温暖化による不完全循環の暖冬増加により夏のメタン生成が増加する可能性を示した。
- 十分な深さがあればメタンの大半が、湖面への上昇時にメタン酸化菌の働きで消費されることを示した。
概要
琵琶湖などを含む亜熱帯湖沼は通常、夏には暖かい水の層が表層に形成され、底にはより温度の低い層が形成されます(成層)。一方、冬には表層の水温が下がり湖水の水温が均一になることで鉛直方向に混合します。しかし、暖冬などで水温が均一化しない場合、底層まで混合せず、不完全な鉛直混合にとどまることがあります。このような時には底層に貧酸素状態が形成されることが指摘されてきました。
本研究では亜熱帯気候下の台北市に位置する翡翠水庫において、完全に湖底まで鉛直混合した冬と不完全な混合であった暖冬の2か年にわたり、詳細なメタン動態の調査を行いました。
結果、暖冬時には不完全な混合のため、底層まで酸素の供給が行き届かず、貧酸素状態が底部で継続することが観測されました。この貧酸素状態の継続が、暖冬の翌夏の底層メタン生成に影響し、その前の夏に比べメタン濃度が3~4オーダーも高くなることが明らかになりました(図)。
冬季の混合の強度が湖の溶存酸素濃度とメタン生成に及ぼす影響についての概念図
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1002/2015JG002972
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/198801
Masayuki Itoh, Yuki Kobayashi, Tzong-Yueh Chen, Takeshi Tokida, Manabu Fukui, Hisaya Kojima, Takeshi Miki, Ichiro Tayasu, Fuh-Kwo Shiah, and Noboru Okuda
"Effect of inter-annual variation in winter vertical mixing on CH4 dynamics in a subtropical reservoir"
Journal of Geophysical Research-Biogeosciences Accepted manuscript online: 1 June 2015