藤田健一 人間・環境学研究科教授、山口良平 名誉教授らの研究グループは、水素を生成する過程で起こる脱水素化反応において高い働きを示す物質である新規水溶性イリジウム錯体触媒を開発しました。この新規錯体触媒を用いることにより、従来よりも穏やかな条件下でメタノール水溶液から効率的に水素をつくりだすことができます。
本研究成果は、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie」誌のオンライン版に2015年6月17日付けで掲載されました。
研究者からのコメント
低炭素社会への移行を進める中で、例えば、小規模なオンサイト型水素製造への応用など、本研究成果がもたらす波及効果は多岐にわたると考えられます。水素製造に関わる基盤技術の開発は不可欠であり、人々の暮らしを支えるエネルギー社会システムの発展・充実のために貢献すると期待されます。
概要
現在、水素は主に天然ガスや石油(ナフサ)などの炭化水素やメタノール等の有機資源の水蒸気改質法により、不均一系触媒を利用した反応で製造されています。しかし、炭化水素を原料とする場合は通常700度以上、メタノールを用いる場合でも200度以上の高温反応条件を必要とし、膨大なエネルギーを要します。一方で、ごく最近、均一系の遷移金属錯体触媒を用い、100度以下の温和な条件下でメタノールと水の混合物から水素を生成する反応が他研究グループから報告されています。しかしながら、1)極めて高濃度の塩基性条件が必要、または2)テトラヒドロフラン、トルエン、トリグリム等の有機溶媒の共存下で行わねばならない、といった安全面や反応の簡便な実施の観点からみて欠点がありました。
本研究グループは以前から、金属中心と機能性配位子との協働作用に着目して、有機分子の脱水素化に高活性を示すイリジウム錯体触媒の創製・開発研究を展開してきました。これまでに、機能性配位子として2-ヒドロキシピリジンを有する錯体、ジヒドロキシビピリジンを有するジカチオン性錯体、ビピリドナートを有する中性錯体5などを合成し、これらを触媒として用いて、1)第一級および第二級アルコールの脱水素的酸化によるカルボニル化合物の合成、2)含窒素複素環化合物の可逆的な脱水素化/水素化による水素貯蔵システムの開発等について成果をあげてきました。本研究においては、これらの基盤となる研究成果を発展させて、新たに開発したアニオン性の水溶性イリジウム錯体触媒を用いることによって、メタノール水溶液からの効果的な水素生成を、温和で望ましい条件下で達成することに成功しました。
錯体触媒を用いた長時間の連続的な水素生成反応
詳しい研究内容について
メタノール水溶液から水素を生成する新規触媒を開発 -効率的な水素製造法としての発展に期待-
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1002/anie.201502194
Ken-ichi Fujita, Ryoko Kawahara, Takuya Aikawa, and Ryohei Yamaguchi
"Hydrogen Production from a Methanol–Water Solution Catalyzed by an Anionic Iridium Complex Bearing a Functional Bipyridonate Ligand under Weakly Basic Conditions"
Angewandte Chemie International Edition 54, Article first published online: 17 JUN 2015
- 日刊工業新聞(6月22日 16面)に掲載されました。