越川滋行 白眉センター特定助教と米国の研究者からなる研究グループは、ショウジョウバエを使った実験から、動物の新しい特徴が進化する仕組みを明らかにしました。 この研究成果は、米国科学アカデミー紀要に6月1日付けで掲載されました。
研究者からのコメント
ミズタマショウジョウバエのような小さな虫に模様がどのようにできるのかを解明することすら、気の遠くなるような道のりです。実験のしやすい昆虫を使うことで、進化はどのように起こるのか、という普遍的な問題に挑戦し続けたいと思います。
概要
生物が、進化の過程でそれまでになかった性質を獲得する仕組みについては不明な点が多く残されています。近年、ゲノム情報(生物の全遺伝情報)が多く解読された結果、発生システムの根幹をなす遺伝子は極めて良く保存されていることがわかってきました。一方で、生物は多様な形態や性質を持っています。この不一致は、どのように説明されるべきでしょうか? 1975年、キングとウィルソンはヒトとチンパンジーの遺伝子配列を比較し、両者が極めて良く似ていることを示しました。ヒトとチンパンジーが形態や行動などの点において大きく異なっていることに触れ、遺伝子配列が非常に似かよっている以上、制御領域の違いによる発現領域や強度の違いが、ヒトとチンパンジーの違いをもたらしているのではないかとの仮説を提唱しました。
この仮説を検証するため、ショウジョウバエ2種(キイロショウジョウバエとミズタマショウジョウバエ)の遺伝情報を比較しました。この2種では、形作りに重要な役割を持つwingless遺伝子の発現領域が異なっていることがわかっています。ミズタマショウジョウバエでは、翅に水玉模様があり、wingless遺伝子がこの模様を誘導しています。研究では、wingless周辺の領域を数kbずつ取り出し、蛍光タンパク質の遺伝子とともに遺伝子導入することで、エンハンサーを探しました。その結果、ミズタマショウジョウバエにはキイロショウジョウバエにはないエンハンサーが三つあり、それぞれ模様ができる位置に対応していました。エンハンサーの由来と導入するホストを入れ替える実験から、三つのエンハンサーすべてについて、その配列の変化が発現パターンの変化に関与していることが示されました。これは、私たちが知る限り、進化の過程でエンハンサーが新しく増えることで、発生制御遺伝子の働く場所が増えていることを実験で示した始めての事例です(図)。
図: ミズタマショウジョウバエでは、新しく獲得されたエンハンサーにより、winglessの発現部位が増加している。
詳しい研究内容について
動物の新しい特徴が進化する仕組みを解明 -ショウジョウバエのcis制御領域の獲得によるwingless発現領域の獲得-
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1509022112
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/198266
Shigeyuki Koshikawa, Matt W. Giorgianni, Kathy Vaccaro, Victoria A.
Kassner, John H. Yoder, Thomas Werner, and Sean B. Carroll
"Gain of cis-regulatory activities underlies novel domains of wingless
gene expression in Drosophila"
PNAS published ahead of print June 1, 2015
- 京都新聞(6月27日 11面)に掲載されました。