江藤浩之 iPS細胞研究所(CiRA)教授および西村智 自治医科大学分子病態研究部教授らの研究グループは、骨髄中の巨核球細胞に生体顕微鏡観察、バイオイメージングを行い、新しい血小板造血の過程を同定し、制御する因子(インターロイキン1アルファ)を明らかにしました。
本研究成果は、日本時間2015年5月11日午後10時(米国東部時間2015年5月11日午前9時)、米国科学誌「Journal of Cell Biology」誌に掲載されました。
研究者からのコメント
我々のチームでは臨床応用向けにiPS細胞から血小板を大量に製造する方法を開発しています。血小板を大量に作るためには、これまでは世界中の研究者が使用しているトロンボポエチン(TPO)や、TPOの巨核球分化成熟作用を補強するとされる薬剤を使う方法が知られていました。今回の成果は、「短期間に」血小板を製造するための重要な知見と考えています。また、血小板放出機構に関する従来の概念を修正した点において大変重要な発見であったと思います。
概要
末梢血中の血小板数は厳密に制御されており、生理的にはほぼ変動せず一定に保たれています。一方、従来から炎症時には急激な一過性の血小板数増加が認められ、血小板造血が促進されているとも考えられていましたが、その過程は分かっていませんでした。
そこで、本研究グループは、血小板の比較的短い寿命にもかかわらず、血小板が生理的に維持され、厳密に制御されるためには、血小板前駆細胞より効率的な血小板放出の第2の過程があるのではないか、また、それらを制御する因子が存在するのではないか、と考えました。
本研究グループは、生きたマウス体内での骨髄細胞を観察する顕微鏡技術として必要となる(従来は不可能であった)、高い解像度で骨髄を観察する技術を開発しました。本研究で用いた、空間解像度300nm、高速(秒30コマ)、マルチカラー(4色)、三次元かつ時間経過を追ったイメージングは、他に例をみないものです。骨髄血管中を流れる血小板と、新たに放出された血小板を区別し、巨核球からの造血を、世界で初めて単一血小板レベルで捉えることに成功しました。
その結果、確かにproplateletと呼ばれる造血過程をマウス体内でも確認しました。一方で、proplateletから放出される血小板数は非常に少ないことも確認しました。炎症時の急激な造血には別の過程が存在していることが考えられます。本研究では、新たな血小板産生として「巨核球が破裂して血小板を短時間かつ大量につくる」過程があることを発見し、本研究グループは「破裂型血小板造血(Rupture)」と名付けました。
新たに同定したProplateletにかわる「破裂型血小板造血」
詳しい研究内容について
生体顕微鏡観察により新たな血小板産生過程を明らかに ~インターロイキン1アルファにより誘導される巨核球破裂型造血~書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1083/jcb.201410052
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/197926
Satoshi Nishimura, Mika Nagasaki, Shinji Kunishima, Akira Sawaguchi, Asuka Sakata, Hiroyasu Sakaguchi, Tsukasa Ohmori, Ichiro Manabe, Joseph E. Italiano Jr., Tomiko Ryu, Naoya Takayama, Issei Komuro, Takashi Kadowaki, Koji Eto, and Ryozo Nagai
"IL-1α induces thrombopoiesis through megakaryocyte rupture in response to acute platelet needs"
Journal of Cell Biology Vol. 209 No. 3 pp. 453–466 Published May 11, 2015
- 日刊工業新聞(5月13日 19面)に掲載されました。