浜西潤三 医学研究科助教、小西郁生 同教授を中心とする研究グループは、抗がん剤(プラチナ製剤)抵抗性となった再発・進行卵巣がん患者に、同経路を遮断する抗PD-1抗体(ニボルマブ)を投与する医師主導治験を行い、20人中2人で腫瘍の完全消失、1人に縮小が認められ、またその安全性が確認されたことで、予後不良の卵巣がんに対する新しい治療法確立への道を拓きました。
本研究成果は、9月8日付けで米国科学雑誌「Journal of Clinical Oncology」に公開されました。
研究者からのコメント
本研究で、私たちは、化学療法が効きにくくなった(プラチナ製剤抵抗性)再発・進行卵巣がん患者に対して、がんに対する免疫応答を制御する PD-1/PD-L1経路を遮断することによって、免疫が再活性化し、腫瘍消失・縮小効果を得ることができました。卵巣がんに対して抗PD-1抗体(ニボルマブ)の有効性を示した論文はこれが世界初であり、同薬は、卵巣がんに対する新しい治療戦略として期待されます。
概要
卵巣がんは、婦人科悪性腫瘍の中で最も予後不良であり、その罹患率および死亡率ともに増加傾向にあります。卵巣がんの50%以上が進行した状態で見つかり、手術療法と化学療法(プラチナ製剤やタキサン製剤)による集学的治療を行いますが、その70%以上は再発します。再発がんで化学療法抵抗性になると有効な治療法がないため、新しい治療法が長年求められてきました。その一つが免疫療法ですが、卵巣がんに有効なものはありませんでした。
近年の基礎免疫学の発展とともに、がん細胞がさまざまな方法で免疫細胞からの攻撃を逃れる、いわゆる「がん免疫逃避機構」の存在が明らかとなり、さらにこの機構の中心的役割を果たしているPD-1(Programmed Cell Death-1)/PD-L1経路が大きな注目を浴びています。本研究グループは卵巣がんに対して抗PD-1抗体(ニボルマブ)を用いてPD-1/PD-L1経路を標的とする新しい治療戦略は有望であると考え、京都大学臨床研究総合センターとの共同研究にて、2011年から2014年12月までニボルマブを用いた医師主導治験を行いました。
本医師主導治験にて、医学研究科婦人科学産科学を中心とする研究チームは、プラチナ抵抗性となった再発・進行卵巣がん20例を対象に、ニボルマブを点滴静注し、その有効性と安全性を確認することにより、新たな卵巣がん治療の確立に道を拓きました。
完全奏効した2症例のCT画像と腫瘍マーカーCA125の推移
(A) 59歳、卵巣漿液性腺癌、多発骨盤リンパ節転移再発症例(白丸)。ニボルマブ投与4か月で完全奏効(CT上腫瘍消失)し、CA125も基準値内に低下した。
(B) 60歳、卵巣明細胞癌、腹膜播種再発症例(白丸)。ニボルマブ投与4か月で完全奏効し、CA125も基準値内に低下した。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1200/JCO.2015.62.3397
Junzo Hamanishi, Masaki Mandai, Takafumi Ikeda, Manabu Minami, Atsushi Kawaguchi, Toshinori Murayama, Masashi Kanai, Yukiko Mori, Shigemi Matsumoto, Shunsuke Chikuma, Noriomi Matsumura, Kaoru Abiko, Tsukasa Baba, Ken Yamaguchi, Akihiko Ueda, Yuko Hosoe, Satoshi Morita, Masayuki Yokode, Akira Shimizu, Tasuku Honjo, and Ikuo Konishi
"Safety and Antitumor Activity of Anti–PD-1 Antibody, Nivolumab, in Patients With Platinum-Resistant Ovarian Cancer"
Journal of Clinical Oncology, Ppublished online on September 8, 2015
- 朝日新聞(9月9日夕刊 7面)、京都新聞(9月9日夕刊 8面)、産経新聞(9月9日夕刊 10面)、中日新聞(9月9日夕刊 2面)、日本経済新聞(9月9日夕刊 14面)および読売新聞(9月9日夕刊 10面)に掲載されました。